テンプラー氏は6人ほどの観光客と3人のガイド見習いを引き連れ、3艇のカヤック、カヌーに分乗し、ザンベジ川を下っていた。ナイル川などに続く、アフリカで4番目の大河だ。やがて彼らは、12頭ほどのカバの群れと遭遇する。最初は十分な距離があり安全だと思っていたが、だんだんと近づいてくるようだ。テンプラー氏のカヤックが先導し、2艇目までは脇の水路に逃げ込んだ。だが、待てども3艇目がやって来ない。

「突然、大きな物音がしました」とテンプラー氏は恐怖の瞬間を振り返る。「カヌー、おそらくはその後部のようなものが、空中を舞っているのが見えました」。3艇目の後部に乗っていた別のガイドの男性がカヌーから飛び出し、残りの客は怯えながらカヌーに留まったという。

カバの群れ
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まるで魚雷のように突進してきた

ガイドの男性は流されるままになっており、150メートルほど下流には子を連れて気の立った母親のカバが待ち構えている。テンプラー氏は観光客の保護を別のガイドに託すと、自らカヌーを漕いで救助に向かった。カバはまるで「古い映画で観た魚雷のように」近づいてくるが、パドルで水面を叩いて威嚇すると遠ざかる。しめたと思った。

だが、流されていた男性ガイドに手を差し伸べた瞬間、2人のあいだに水が吹き上がった。テンプラー氏の視界は水しぶきで完全に奪われ、何が起きたか理解できなかったという。真っ暗で何も見えず、奇妙なほど静かだ。「気がつくとカバの喉の奥に、(頭から)腰まで呑まれていたんです」。カバのアゴは最大で150度と、ほぼ水平に近いまでに開く。

テンプラー氏はCNNに対し、このように語っている。「腰から下は水を感じました。川に浸かって濡れている感覚です。ですが腰から上は別です。温かく、川のようには濡れていませんが、乾いてもいない。そして腰には、ものすごい圧力がかかっていました。体を動かそうとしても動けないんです」

数分間の死闘を演じるなかでテンプラー氏は、カバの中で何度も体勢を変更。助けに来たカヤックにしがみつき、何とか逃げ延びたという。一部始終を目撃していたガイドツアーのメンバーも、しばらくは全員が恐怖に包まれ混乱状態であった。

飼い主は噛み殺され、川の中で見つかった

身の毛のよだつ事故は絶えない。米FOXニュースは2020年、南アフリカの40歳男性が、ペットとして飼っていたカバにかみ殺されたと報じている。男性はカバを「私にとっては息子のようなものです」と溺愛していた。歯を磨くなどケアをしたり、水中で背に乗って泳いだりして触れあっていたという。