<小さな集落に過ぎないとはいえ、ロシアの防御線を突破しアゾフ海に達する足場になる上、何より遅々として進まない反転攻勢に国内の不満も抑えきれなくなっていた:ブレンダン・コール>
キーウとキーウの祖国記念碑の空中写真
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ウクライナ政府はロシア軍が占領していた東部の村ウロジャイノエを奪還したと発表した。

反転攻勢の開始から2カ月余り。ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領にとって、これは喉から手が出るほど欲していたブレイクスルーだ。

ウクライナ東部ドネツク州のこの村は、ウクライナ軍がロシア軍の占領下から解放すべく、6月4日前後に大規模な攻撃を開始した同州西部の複数の村の1つ。

反転攻勢が期待通りに進んでいないことは、ウクライナ政府も認めていた。ウロジャイノエ村の奪還は、7月27日に発表された近隣のスタロマイオルスケ村の解放に続く2つ目の成果だ。

「ウロジャイノエが解放された」と、ウクライナのハンナ・マリャル国防次官はメッセージアプリ・テレグラムで伝えた。「村の周囲でわが軍が防護を固めている」

本誌のメールでの問い合わせメールに対してロシア国防省は、村を失ったことを認めていない。だがテレグラムでは、ロシア軍はウロジャイノエ地域で引き続きウクライナ軍に砲撃と空爆を加えていると発表した。

ウロジャイノエ村はロシアの防御線の北側、ロシア軍が占領するアゾフ海北岸の都市マリウポリに向かうルート上に位置する。ロシア軍が何層にも築いた防御陣地の攻略に手間取ってきたウクライナ軍と、その苦戦ぶりを見守ってきたウクライナの人々にとって、この村の奪還は胸のすく成果だろう。

戦い続ける新たな理由に

「ブレイクスルーといっても、あくまで相対的にだ」と、ロシア軍の戦略に詳しいイタリア・ボローニャ大学の研究員ニコロ・ファソラは本誌に語った。彼によれば、ウクライナ戦争が始まる前のこの村の人口は1000人前後にすぎなかった。

だがたとえ寒村であってもその奪還は「ウクライナのプロパガンダと情報戦にとって大いに意義がある」という。「西側に目に見える成果を示し、『われわれは善戦している。引き続き支援してほしい』と言えるからだ」

ゼレンスキーは奪還の知らせに救われたはずだと、ファソラはみる。先週には、国外に逃れた徴兵対象者から賄賂を受け取った疑いでウクライナ各地の徴兵センターの責任者が解任されたニュースが報じられたが、ファソラによれば、この突然の解任劇も、反転攻勢の遅れに不満が広がるなかで、世論の目をそらす苦肉の策と解釈できるからだ。

こうした状況下で、「ウロジャイノエ奪還は、戦い続ける新たな理由として、国民を鼓舞する有効な材料となる」と、ファソラは言う。「そういう意味でブレイクスルーなのだ」

ウロジャイノエ村は、ロシア軍のウクライナ侵攻の総司令官だったセルゲイ・スロビキン(ワグネルの乱に加担した疑いで、現在は自宅軟禁中)が2022年暮れに命じて建設させた防御線、いわゆる「スロビキン・ライン」から北へ8キロ余り離れている。