釣り竿から宇宙船まで

炭素繊維にプラスチック樹脂などを混ぜて固めた複合材料、CFRP(炭素繊維強化プラスチック)は、航空機、宇宙船、人工衛星、レーシングカー、競技用自転車、テニスラケット、ゴルフシャフト、鮎の釣り竿などに利用されています。

レーシングカーの頂点であるF1グランプリのマシンは、軽量化のため、早くからCFRPを利用してきました。1981年、イギリスの名門、マクラーレンのMP4/1に採用され、瞬く間にCFRPが席巻しました。そして、セナやシューマッハなどの最速伝説が炭素原子のうえで生まれます。

ランボルギーニが2010年に発表した限定モデル「セストエレメント」(6番元素)は、原子番号6番の炭素を表す名前のとおり、ボディはCFRPでできており、軽量化に徹した車体です。

航空格納庫の中で整備士たちが整備中
写真=iStock.com/aapsky
※写真はイメージです

「航空機=ジュラルミン製」と教える高校教育のなぞ

大宮理『ケミストリー現代史 その時、化学が世界を変えた!』(PHP文庫)
大宮理『ケミストリー現代史 その時、化学が世界を一変させた!』(PHP文庫)

軍用機はもとより、旅客機でも燃費向上のための軽量化が至上命題ですから、ボーイングB787「ドリームライナー」は、炭素繊維を50パーセント近く利用しています。荷重がかかるフレームやエンジンはアルミニウム合金やチタン合金を使っていますが、胴体や翼などはほとんどがCFRPです。そういった点で、いまだに化学の入試問題に、「航空機の材料はジュラルミン(アルミニウム合金)である」みたいな旧態依然とした問題が出てくるのはどうなのかと悲しくなってきます。

最先端の軍用機、とくにステルス戦闘機など第5世代といわれるものに関しては、炭素繊維が大量に使われていると思われます。軽量化し、さらにわざと不安定な挙動にして、空中で垂直になれるほどの高機動性にします。人間離れした不安定な挙動をコントロールできるのは、各種センサーとコンピュータの姿勢制御技術のおかげです。

鉛筆の芯と同じ炭素原子が集まったものでも、集まり方を変えるだけで炭素繊維は非常に強い繊維になります。これが化学のスゴいところなのです。

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