世界の炭素繊維の9割は「日本発」の素材

アメリカのデュポンが発明した「ナイロン66」を日本に導入するための提携交渉の際、東レはノウハウは秘密で、ただ生産するだけの権利料として10億8000万円の前払金を要求され、それを吞んで導入しました。

余談ですが、鎌倉市にある東レの医薬研究所(旧・基礎研究所)は、特撮テレビ番組「ウルトラマン」で宇宙研究所と科学特捜隊の基地として登場しました。

1971年2月、東レは世界に先駆けて、PAN系炭素繊維の生産を開始しました。でも、生産を始めたものの、目新しすぎて活用先が見つからず、鮎釣りの釣り竿やゴルフのシャフトをつくって活路を見出していました。

その後、東レのPAN系炭素繊維は先端材料として認められ、航空機の材料としてブレイクします。東レの初年度の生産は10トンにも満たないものでしたが、いまでは29万トン以上になっています。

一方、原油から得られる残渣のピッチという黒いドロドロの物質からできるピッチ系炭素繊維は、1970年に呉羽化学工業(現在のクレハ)で生産が開始されました。現代では、世界の生産量の9割がPAN系の炭素繊維です。

1+1が10になる複合材料

炭素繊維は軽くて強い理想の素材です。引っ張りに対する強さは、鉄の10倍もあります。炭素繊維だけでは用いられず、ほかのプラスチックの樹脂と混ぜた複合材料として使われます。

複合材料は、それぞれの材料のメリットの相乗効果になります。4000年前、古代メソポタミアでジッグラト(宗教的な聖塔)に使われた日干しレンガも、藁(植物のセルロース繊維)を粘土に混ぜた複合材料です。

日本の家屋や土蔵などの外壁の白い壁に使われた漆喰も、藁を繊維として入れた立派な複合材料です。同じような発想が、鉄筋コンクリートです。複合材料とは、1+1が2にとどまらず、5にも10にもなるイメージです。