おびえるより、怒るほうがうまくいく

あなたが自分の実力に見合わないほど重要な仕事をまかされたとしましょう。年齢を無視した大抜擢なのですが、こういうとき、たいていの人は素直に喜ぶことができません。

「自分にうまくできるのだろうか?」
「失敗したら、どうしよう……」

そんなふうに考えて、おびえや恐怖のほうを強く感じてしまうのです。

こうしたケースにおいては、恐怖よりも「怒り」を出すようにするとうまくいくかもしれません。「チクショウ、こんな仕事に負けねえぞ!」「実力不相応でも、やっつけてやる!」と勇ましいことを考えるようにするのです。

怒りの感情は、リスクを感じにくくしてくれます。

恐怖に負けそうになったときには、できるだけ怒るようにしたほうがいいのです。

刃物を持って暴れている人がいたら、たいていの人は恐怖を感じると思うのですが、「ふざけたことをしやがって」と怒りを感じた人は、刃物をものともせずに勇敢に立ち向かっていくだろうと心理学的には予想できます。恐怖よりも怒りがまされば、リスクも感じなくなるのです。

アメリカ同時多発テロ事件の直後に行われた実験

カーネギーメロン大学のジェニファー・ラーナーは、アメリカ同時多発テロ事件(2001年9月11日)が起きた直後の9月20日に、全米からランダムに選んだ973名(13歳から88歳)にお願いして、ある実験をしてみました。ある人には怒りを、またある人には恐怖について聞いてみたのです。

カーネギーメロン大学
カーネギーメロン大学(写真=Cbaile19/CC-Zero/Wikimedia Commons

「テロリストは私たちにさまざまな感情を抱かせました。私たちは、特に、あなたを『怒らせた』ことに興味があります。できるだけ詳しくあなたの感じた『怒り』の感情を教えてください」

別の条件では、「怒らせたこと」の箇所が「恐怖を感じたこと」に、「怒り」の箇所が「恐怖」に置き換えられていました。

この操作がすんだところで、旅行で事故に巻き込まれるリスクや、自分が乗っている飛行機が墜落するリスクなどを見積もってもらうと、怒りの感情を思い出してもらったグループでは、あらゆるリスクを低く見積もりました。怒りを感じると、リスクを感じにくくなったわけです。

怖いと感じたときには、それを怒りの感情に置き換えるようにするといいかもしれません。そうすると恐怖を感じにくくなるからです。スポーツでも、ビジネスでも、怖いと感じたときには、「チクショウ、負けねえぞ」を口に出してみてください。意外に効果的だと思いますよ。