社員の成長を促すにはどうすればいいのか。パーソル総合研究所の小林祐児・上席主任研究員は「重要なのは自身のキャリアについて対話する機会を設けることだ。ところが、ほとんどの企業では対話が不十分なためさまざまなキャリア施策がムダになっている」という――。(第7回/最終回)
歯車の上に並んだ人型が描かれた絵を見ている男性
写真=iStock.com/ismagilov
※写真はイメージです

負の影響が強い「仕事は運次第」という意識

今回のテーマは、ある意味でリスキリングの「最後の難関」とも言える、人々の学びへの「意思」を創るという点です。

前回のコラムでは、他者を経由した「炭火型」の動機付けの方法の一つとして、コーポレート・ユニバーシティによる学びの共同体づくりを提案しました。日本人が苦手とする新しい人とのつながりづくりを組織的にデザインすることで、継続的な学びへの動機付けを期待するものです。

これらはいわば他者からの「もらい火」的な動機付けの方法です。しかし、焚火たきびの延焼がどこかに「種火」がなければ難しいように、あまりに学ばない日本のビジネスパーソンの学びへの意思を調達するには、それ以外の仕掛けも当然必要になってきます。鍵を握るのは、「キャリアの仕組み」です。

日本は、「配属ガチャ」「人事ガチャ」と呼ばれるように、ジョブローテーションや業務命令異動を通じポジションと仕事内容、勤務地まで会社がコントロールし、それに多くの従業員が大人しく従うという、珍しい慣行を持っている国です。そしてこれが、学びの意思を抑え続けます。今は経理や営業でも、数年後は違うかもしれない。そうしたジョブ・チェンジの可能性が専門領域を深めることを阻害するからです。

筆者が中原教授と共同調査したデータを分析しても、就業者の「学びなおし」への意欲へ大きく負の影響を与えているのは、「仕事は運次第」という意識です。キャリアや仕事全般について、「自分の計画通りにいくことはない」という意識を持っている人は、さまざまな属性の影響を取り除いても、学び直しの意識が大きく低くなっていました。仕事が運や偶然に左右されるという感覚は、主体的な学びの大敵です。

【図表1】「学びなおし意欲」の阻害要因
出所=パーソル総合研究所・中原淳「転職に関する定量調査」