創業家が指揮を執る意味

創業家の人間がそういうポジションに立って音頭を取ることについては、当然、やったほうがいいと思っていました。よく、「創業家出身のプレッシャーはありませんか」と聞かれますが、それはあまり感じません。一方で、創業家がやった方が良い仕事、創業家が担うことで生まれる効果というのは間違いなくあると感じています。みんな「よし、やろう!」という空気になるし、「このブランドは絶対に売らなければ」という意識も生まれる。私がプレモルに関わった時も明らかに、いろいろな動きが変わりましたから。

仕事人生で最大の失敗談を語ってくれたサントリー 鳥井信宏社長
撮影=遠藤素子

一番わかりやすかったのは、飲食店さんへの対応です。当時、飲食店さん向けの樽生ビールは基本的に「モルツ」でした。プレモルの樽生をお勧めしても、飲食店さんからは「なんでわざわざ高いビールに変えなきゃいけないの?」「誰のためにそんなことをするの?」という反応が返ってくるばかりでなかなか進まない状況でした。

ところが私が担当するようになった06年ぐらいから、飲食店さんに対して、「そうじゃありませんよ。外食は特別な機会だから、外出の時こそ、値段は少し高くてもおいしいプレモルを飲めればいいじゃないですか」と、社員が切り返して提案するようになってきたのです。これは私が言い出したのではなく、社員みんなが議論する中で出てきた発想です。

この発想を社内用語で「ランクアップ」と呼ぶようになりましたが、ランクアップがさまざまな活動の軸になって、モルツを扱ってくださっていた飲食店さんが、徐々にプレモルに変えてくださるといううねりになっていきました。飲食店さんも、実際プレモルに変えてみたら単価は上がるし、お客さまもせっかく飲むならおいしいプレモルを、という流れになりました。そして、この良い流れが家庭用の缶ビールにも波及していったのです。

心からおいしいと思えるビール

社員がプレモルを「心からおいしい」と思い、中味に自信を持つことで、営業現場でのおすすめの言葉も「1番安いですよ」とか「今日は○○がおまけで付きますよ」ではなく、「おいしいですよ」と中味で勝負するようになりました。ビール4社の中で最も値段が高く、品質にこだわったビールをサントリーが売っているのです。社内がだんだん盛り上がっていきました。