ビールは1種類あればいい時代だった
サントリーがビール事業に再参入したのは1963年のことです。その当時は主に街の酒販店さんと商売をしていたわけですが、当時は缶ではなくて瓶が中心の時代。街の小規模な酒販店さんは商品を置くスペースに限りがあるので、極端に言えば、「ビールは1種類置いておけばOK」という時代です。先行する大手3社の牙城を崩すのは相当に難しかったと思います。サントリーはそんなビール市場へ果敢にチャレンジしたということです。
私は1997年にサントリーに入社し、酒類の営業からスタートしました。ビールの営業というと「自社のビールを毎晩飲んで飲食店に営業攻勢をかける」といったイメージもあるかもしれませんが、ここ何十年の間にビールの販売チャネルは大きく変化しており、私が入社した頃には、「とにかく飲んで営業」という世界ではありませんでした。いまやビール類の売り上げのうち、缶容器の比率が8割ですから、家庭向けのウェイトが大きい市場になっています。
慣れるのに苦労した金融→メーカーの転職
入社して最初に担当したのは飲食店チェーンです。これは、同じ営業といっても前職の金融機関で経験したのとはずいぶんリズムの違う仕事でした。
前職の場合、月間でこれだけ借入金や預金が減る、ということが前もって分かっているから、それならば、どの会社でこれだけ融資を増やせばいいなというリズムで、計画は比較的立てやすかったのです。
ところが、酒類の営業は、「来月ビールの新商品を発売するので、その新商品をこれだけ売りましょう」という考え方。個人の目標でも商品ごとに数量を決めて販売計画を立てるため複雑になることも多く、慣れるのには少し苦労しました。
前職ではお金を商品として扱っていましたが、お金にはある意味、色がついていない。だから「トータルでこれくらいの金額に達したらいい」という世界です。ところがメーカーであるサントリーが扱うのは多種多様な商品ですから、お客さまに新商品の味わいをお試しいただいたり、定番品をリピートいただいたりするために、この商品はこれだけ売らないといけない、あの商品はこれだけ、といった商品ごとの販売計画が存在する。最初の頃は、「どの商品が売れようと、全体で売り上げの目標金額を達成したら、それで良いのでは」などと思ったこともありましたね。
今では、すっかりメーカーの考え方になり、お客さまそれぞれに合った商品を提供することが使命だと思っています。