異常値を排除する「刈り込み算術平均法」とは
LIBORは、代表的な銀行がロンドン銀行間市場において無担保で資金調達するための金利の平均値であって、多くの他の金融取引のベンチマークとなる。ロンドン銀行間市場のLIBORのほかに、東京銀行間市場の東京銀行間取引金利TIBORやユーロ圏銀行間市場の欧州銀行間取引金利EURIBORなどがある。ベンチマーク金利に基づいて、企業への貸出金利や個人への住宅ローン金利が決められたり、金利スワップなどの金融派生商品が設計される。LIBORは、10カ国通貨について、それぞれ翌日物から12カ月物までの15種類の満期、合計150種類の金利が毎営業日、発表されている。各銀行から金利の情報を取りまとめているのが英国銀行協会(BBA)である。そのことから、BBA-LIBORとも名づけられている。
LIBORの動向がロンドンの銀行間取引のリスクプレミアムを表す信用スプレッド(LIBOR-TB金利)とともに図に示されている。サブプライム問題の影響を受けて、07年8月に信用スプレッドが2%に上昇したものの、アメリカの連邦準備銀行の金利引き下げによってLIBOR自体は低下した。さらにリーマンショックが起きた08年9月15日直後は信用スプレッドとともにLIBORが急上昇した。サブプライムの証券化商品の不良債権化によってカウンターパーティ・リスクが高まり、そのリスクプレミアムが上乗せされた。その後、アメリカの連邦準備銀行がイングランド銀行や欧州中央銀行との通貨スワップ協定を通じてドルをヨーロッパに供給したことによって急速にLIBORが低下した。
BBAによれば、「もし午前11時直前に相当の市場規模で銀行間提示を求め、受諾することで資金を借り入れるならば、その場合に貴行が資金を借り入れることができる金利」が、その定義となっている。そして、ここが重要であるが、すべての銀行がLIBORとして発表されているすべての通貨と期間で相当の市場規模で資金を必要としているわけではないことから、必ずしも実際の取引に基づかなくてもよいとされている。また、その理由として、銀行は、実際に取引が行われた借り入れの金利から信用リスクや流動性リスクのプロファイルを知っていて、実際に取引が行われない借り入れの正しい金利を正確に予測する利回り曲線をつくることができるとしている。
3つの指針((1)市場活動の大きさ、(2)信用格付け、(3)該当通貨の専門性)に従って対象となる銀行が選択されている。10種類の通貨のそれぞれについて、ロンドン短期金融市場における活動を最もよく表すように、6行から18行までの銀行が選ばれている。そのため、提示される金利は平均的にはロンドン銀行間市場における最低の銀行間無担保借入金利となる傾向にある。LIBORは、その計算において異常値を排除するために、上位25%の金利と下位25%の金利を除外した刈り込み算術平均法によって計算される。例えば、18銀行がすべて金利を提示した場合には、上位4銀行と下位4銀行が提示した金利を除外して、10銀行が提示した金利の算術平均が計算される。この刈り込み算術平均法の計算によって、ある1つの特定銀行によるLIBORの上方や下方への誘導が行われない工夫がなされている。
しかしながら、LIBORスキャンダルは起きた。6月27日にイギリスの銀行のバークレイズが、LIBORとEURIBORを不正操作しようとしたとして、イギリスの金融監督当局の金融サービス庁(FSA)から5950万ポンド(73.2億円)、アメリカの商品先物取引委員会(CFTC)より2億ドル(157億円)、アメリカの司法省から1.6億ドル(125.6憶円)、総額355.8億円の課徴金が科された。その理由としてFSAとCFTCは次の2つの不正操作を指摘している。しかも、これらの2つの不正操作にバークレイズの経営者たちが長年にわたって関与していたことも指摘されている。
一つは、05年半ばから07年秋にわたって、LIBORとEURIBORの自己申告する金利を決定する責任のあるトレーダーと経営者が、金利スワップ取引などの金融派生商品のバークレイズの取引ポジションに利益を不正に誘導するためにベンチマーク金利を不正操作し、虚偽申告を行った。とりわけ、金利スワップ取引は、中小企業や金融機関や公的当局などの広範囲の顧客と取引されていることからその影響は甚大であることも指摘されている。また、バークレイズのトレーダーがEURIBORを不正操作することに協力するように依頼したり、他の銀行がドル建てLIBORとEURIBORの不正操作を行うことを幇助したりしたとしている。
もう一つは、07年8月から09年初めまでの世界金融危機において、バークレイズの上層部経営者からの指示に従って、バークレイズの財務状況や信用リスクに関してマーケットやメディアがネガティブに評価することを避けるために、信用リスクを過小評価し、リスクプレミアムを低く見積もり、ドル建てLIBORを意図的に低く申告した。円建てLIBORとポンド建てLIBORも同時期に低めに虚偽申告していたことも指摘されている。