若い世代をファンに変える情報戦略

いざ家庭向け製品の発売の段になって、ネーミングに関して一悶着あったという。それは「ジュレ」という言葉を使ったとして、どれだけの人が知っているか未知数だったからだ。加えて、社内では「ゼリーソース」で通っており、そのままのほうがわかりやすいのではという意見が根強かった。しかし、欧風料理で使われている用語は「ジュレ」であり、そのニュアンスにはそこはかとない高級感が漂っていた。

対照的に「ゼリーソース」にしてしまうと、いわゆるお菓子の「ゼリー」をイメージされてしまい、甘ったるいものと思われてしまう可能性があった。それゆえ「ジュレ」という言葉が選択されたのだ。さらに、液体のようにするため、「のっけて」を加え、「のっけてジュレ」となった。

この製品には、発売時期に絡んで奇妙なシンクロニシティ(有意な偶然の一致)がある。ハウス食品が「のっけてジュレぽん酢」を発売した11年2月には、ヤマサ醤油も「昆布ぽん酢ジュレ」を出している。正確には、同社は2月15日発売で、21日発売のハウス食品より約1週間早いのだが、無論その時点でハウス食品もすでに製品を出荷する準備が整っていた。

同種の製品がほぼ同時に発売されるシンクロニシティ現象があることはしばしば耳にする。だが、ハウス食品とヤマサ醤油は、時期、ネーミングの「ジュレ」、包装形態や容量、価格も類似していて驚きである。これら2社に比べ、ぽん酢最大手のミツカンは、8月19日と半年ほど遅れて「ぽんジュレ香ゆず」を発売している。しかし、上記の通り、震災の影響で事実上のスタートはハウス食品も、ヤマサ醤油も夏以降なので、ほぼ同時期のスタートといえる。

3社揃い踏みとなってから最も売れたのは、ハウス食品の「のっけてジュレぽん酢」であった。なぜ同社が突出できたのかというと、そこには緻密な調査があったからだ。同社では、デモグラフィック別の定期調査や味覚調査は以前からしばしば行ってきたが、この製品の場合、すでにサンプルとなる業務用製品があったので、比較的大規模な味覚調査を無理なく実施することができた。600サンプルの被験者に「オイシイ」かどうか、そのテイストを判断してもらって、その後に自宅に持ち帰ってトライアルしてもらっていたのだ。

この結果が良好だったので、一般家庭向け製品の市場化とあいなった。上記の通り、競合企業とほぼ同時スタートでありながらも、比較優位の成果を挙げられたので、その原因がどこにあるのかを年代別に調べたという。これにより興味深い事実が判明した。栗本氏によると、「40代以上のお客様はどこのメーカーでも同じようにつかんでいました。しかし、私どもが突出していたのは、それよりも若い世代、20代、30代の方に使われていたという点です」とのことだ。

若い世代に好まれた理由に、同社の巧みな情報戦略が挙げられるだろう。11年8月からの再スタートの折に、「のっけてジュレ」でツイッターの公式アカウントを取得し、積極的に若い人々とコミュニケーションを交わすようになった。カスタマーコミュニケーション本部広報課の前澤壮太郎氏は、「ツイッターは強いという印象を持っています」と実感を込めて指摘する。

また、春と秋に開催される問屋の展示会も有効活用している。ここでは、雑誌「Mart」(光文社)の読者モデルが呼び集められ、展示製品に投票をしてもらっている。得票率が高く、人気の製品は、ヒットする確率が高くなる。そこで、ハウス食品では、セールストークの巧みな実演販売士にお願いして「見てください。このぽん酢を。垂れません」といった口上で積極的に呼び込みを行った。この展示会には、マスコミも多数来場しているため、得票率が上がると、「話題」として取り上げてもらえる。栗本氏は感慨深く「パブリシティは本当に大きな効果がありました」と語る。