酒乱の父親は49歳で死去
東北地方在住の山田寅彦さん(仮名・60代・既婚)の両親は、知り合いの紹介で、父親30歳、母親23歳の時にお見合いをして結婚。母親は翌年、山田さんの兄を、26歳の時に山田さんを出産した。
父親は兄3人、妹1人の5人きょうだいの末っ子。母親は兄・姉・弟・妹の5人きょうだいで、働き者で明るい人だった。
建築関係の自営業をしていた父親は、幼い山田さんや兄とよく遊んでくれた。山田さんが物心ついたとき、ひょうきんな父親を中心とした笑いのある明るい家庭だった。
しかし、何がきっかけか、父親は徐々に働かなくなり、日中から飲酒するようになっていく。酒を飲みすぎて暴れることが増え、家庭が暗くなっていった。両親の夫婦仲は悪くなり、父親が暴れたときは、母親に背負われて逃げたこともあった。
母親は、働かなくなった父の代わりに精密機械の下請けの仕事を始め、家計を支えるようになった。
父親は49歳になると、酒の飲み過ぎから肝硬変になり、急死。
「日中から酒を飲んでいることが多く、私が高校に入ると、頻繁に居酒屋から呼ばれ、泥酔した父を背負い、家まで連れ帰っていましたが、背中に失禁されたこともありました。暴力は振るわれませんでしたが、酔って私のラジカセを踏みつけて、壊してしまったこともありました。小さい頃からよく遊んでくれた情はありましたが、(亡くなっても)涙は出てきませんでした」
兄も泣いていなかったが、母親は泣いていた。
42歳の母親は、父親が亡くなってすぐ、乳がんになっていたことがわかったが、手術や入院治療を経て、その後は寛解。退院後は働きながらも、高校3年生になっていた山田さんの毎日の弁当作りをこなしてくれた。
兄は高校を卒業し、建築関係の会社に就職していた。山田さんは高卒後、不動産関係の専門学校に進む。やがて24歳くらいの頃、兄は結婚し、実家を出た。その2年後、建築設備の会社に就職していた山田さんが、高校時代からの友人だった女性と結婚し、実家を出た。
そのタイミングで、一人暮らしになった母親を心配した兄家族が実家にもどり、母親と同居を開始。母親は仕事を続けながらも、友人たちとの交際も積極的に行っていた。還暦後は、老人大学などに参加して新しい友人をつくり、充実した老後を送っていた。
ところが兄家族と母親の同居から約16年後、兄が42歳、母親が66歳の頃、兄夫婦の離婚が決まる。兄の妻と子どもたちは出て行き、実家は母親と兄だけになってしまった。その後、半年くらいで兄は実家を出て、一人暮らしを始めた。
「母はいつも心配して、良くしてやろうとして言っていたようですが、兄は小言を受け流すことが下手というか、やはり相性が良くなかったということでしょうか。兄は離婚後、精神的に不安定になっており、実家にいるのがつらくなったようです。母は、私は素直に母の言うことを聞く耳を持つが、兄は素直に聞いてくれないと嘆いていました」