飼い主とペットの両方が高齢化する「ペットの老老介護」では、さまざまな問題が起きる。医療ジャーナリストの木原洋美さんは「犬が認知症になった場合、夜鳴きは深刻な問題になる。多くのケースでは服薬で収まるが、私が取材した80代女性のケースでは、薬が効かずに追い詰められてしまった」という――。
犬と年配の女性
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愛犬の「声帯切除」を決断した80代女性の苦悩

「声なんかなくたって、ママと一緒にいられるほうが幸せよね」――。愛犬の頭を優しく撫でながら女性(80代)はそう語り掛けた。

認知症による夜鳴きを止めるため、犬は一年ほど前に声帯切除手術を受けていた。発せられるのは、すき間風のような小さな声だけ。

夫に先立たれ、都内のマンションで一人暮らしをしていた女性にとって我が子以上に大切な家族だったが、夜鳴きが始まり、近隣からの怒声や苦情に追い詰められた結果、苦渋の決断に至った。

愛犬を連れて寒空の下、よたよたと夜通しさ迷ったこともあった。

獣医師から教わった、昼夜逆転を改善させるための散歩や鎮静剤を与える等の方策は役に立たなかった。動物愛護センターに引き取ってもらう……なんていう選択肢はあり得ない。

「もう一緒に死ぬしかないんでしょうか」

涙ながらの訴えに、獣医師が提示してくれたのが声帯切除だった。

人も、ペットも高齢化している現実

65歳以上の高齢者の割合が「人口の29%」を超えた“超高齢化社会”の日本で、犬猫の平均寿命も延び続けている。

ペットフード協会の調査では、犬全体の平均寿命は2022年現在、14.76歳、猫全体の平均寿命は15.62歳。1990~1991年の調査では、犬の平均寿命は8.6歳だったというから、6歳以上も延びたことになる。