衝動的な少年犯罪の背景にはなにがあるのか。弁護士の知名健太郎定信さんは「母親から受け入れを拒絶された直後に、少年院を出ることになった15歳の少年が、たまたま見かけた若い女性に、包丁をむけ、殺してしまうという事件を担当した。この少年に共感性が育たなかったのは、生来的なものでなく、環境の要因が大きいのではないか」という――。(前編/全2回)
※本稿は、岡田行雄編著『非行少年の被害に向き合おう! 被害者としての非行少年』(現代人文社)の一部を再編集したものです。
葛藤や劣等感を抱える少年たち
2003年に弁護士登録をしてから、多くの少年事件を担当してきました。少年たちと接するなかで、彼・彼女らが親との関係や、学校などでの人間関係等で深く傷つき、葛藤や劣等感を抱えていることを知りました。
私自身も、子どものころ、いろいろな葛藤や劣等感を抱えて生きてきた人間です。だからこそ、少年たちに共感することができ、彼・彼女らを勇気づけることに夢中になれたのではないか、と思うのです。
そのような思いで、付添人活動を続けるなかで、少年たちが更生していく姿をみて、ある程度の成果を感じたことも何度もありました。
非行少年が負っている根深い「傷」
しかし、担当したある事件を通じて、共感し、勇気づけ、環境を調整するだけでは、問題の解決にならないほどの「被害」を受け、根深い「傷」を負っている少年がいることに、あらためて気づかされました。
また、そのような深い「傷」の存在を知ったことで、これまで担当してきた事件において、少年が受けた「傷」を見過ごしたり、軽視したり、場合によっては、その「傷」をさらに痛めつけるようなことがあったのではないか、と反省するようになりました。
その事件とは、市街地で起きた15歳の少年による殺人事件でした。