「ホットケーキミックスを水で溶いて舐める」生活
K少年に、実家で生活していたときの話を聞くと、父が兄に暴力を振るい、暴力を振るわれた兄が、今度は少年の首を絞めるというように、暴力の連鎖構造ができあがっていたことがわかりました。
「家ではどんなものを食べていたの?」と聞くと、「買ってあるパンなどがあれば、それを勝手に食べていた」「たまに母親と一緒に買いに行くコンビニ弁当や、ファーストフードのハンバーガーがごちそうだった」といいます。家に一人で取り残されていることも多かったK少年ですが、家にはすぐに食べられるようなものは、なにもおいてないことがよくあったそうです。そんなときはどうするのか。
「ホットケーキミックスって、知ってますか。あれを水で溶いて舐めるんです。火を使うと怒られるから。先生もやってみてください。おいしいですから」というK少年。
明らかに異常な食生活なのに、少年はそのことすら認識していないようでした。
暴力を受けても、飢えていても、誰も助けてくれない
すぐ近くに祖父母も住んでいたはずなのに、K少年が暴力を受けても、飢えていても、誰も助けの手を差し伸べてくれることはなかったのでした。
本当に過酷ななかを生き抜いてきたのだな、と思い、素直に「大変だったね」とK少年に伝えても「別に」という答え。
「他の子どもが甘やかされているだけで、自分で生き抜くのがふつうだから」
「親に甘えている同世代を見ると、無性に腹が立つ」などと答えます。
このように家庭に問題があったとしても、多くの子どもは、他の家庭がどうなっているのかを知らないので、自分の家庭が異常であることに、なかなか気づくことができません。
また、自分の家庭が異常であることを認めることは、子どもにとっても、つらいことです。だから、それが「ふつう」であると思い込もうとする場合もあるのです。
このような会話から、少年が虐待的な環境に置かれていたことは、わかっていましたが、虐待について専門性がない私には、このような体験が、本件事件にどのように影響を及ぼしたのかまではわかっていませんでした。
目の前の少年と、その少年が引き起こした重大な結果。その二つがなかなか結びつかず、戸惑いを感じていました。