痴漢犯罪に対する社会の認識は、どのように変わってきているのだろうか。漫画家の田房永子さんは「地下鉄やJRの駅構内に掲示される痴漢犯罪の啓発ポスターは、以前は、被害者だけが行動を起こすことが前提になっていたが、最近は周囲の人たちが助けることが前提になっている。その背景には、ここ10年の社会全体の痴漢に対する認識の変化があるのではないか」という――。
痴漢犯罪の啓発ポスターを見て受けた衝撃
先日、都営地下鉄でこのポスターを見かけて衝撃を受けました。
都営交通による、痴漢犯罪の啓発ポスターです。
「痴漢 目撃 助けたい 助ける準備、できていますか?」というコピーの下に、助けるための具体的な3つの方法が記されています。
電車内や駅構内での痴漢犯罪、性暴力防止のポスターがここまで進化していることに私は感動しました。
このポスターが貼られていること自体が、この10年で社会全体が成熟したことを意味しています。このポスターがどれだけすごいことなのかを、過去の啓発ポスターと比較しながら書いていきたいと思います。
かつて話題になった2010年代のポスター
痴漢犯罪防止啓発ポスターで最も注目され話題になったのは、2013年から掲示されていたこの漫画シリーズでしょう。
昭和の漫画の懐かしい絵柄をモチーフにして1人のイラストレーターの方によって描かれていたシリーズです。毎年、劇画風や少女漫画風などハイクオリティーな新作が発表され、最終的にはスタジオジブリ風まで制作されていました。
それまで地味で堅い印象でひっそりと貼られていた痴漢犯罪防止啓発ポスターが、このインパクト抜群の漫画シリーズによって多くの人の目に留まるようになったといわれています。
このあまりにも上手な漫画シリーズの絵柄が毎回変わるのが面白くて、私も楽しみにしていました。新作を見るたび、心の中でクスッと笑ってしまう。
その反面、痴漢犯罪防止啓発のポスターとしては強い違和感も持っていました。