日本の拠点をMITにつくるべき
そこで問題になってくるのが教員の派遣だ。北海道にIBMの技術者が行きたがらないのと同じで、MITの優秀な先生は言葉も慣習も異なる日本に行って研究しようとは思わない。ホールディングカンパニーが強制力を利かせようとしても無駄。事業部あるいは個々の教員が拒否して終わりだ。おそらく今回の案件も、数人の教授が日本側の不動産利権に取り込まれて推進しているのではないか、という気がする。
なかにはラーメンやカレーが好きだったり、配偶者が日本人だったりして、日本行きに手を挙げてくれる先生もいるだろう。ただ、来たとしてもバケーション感覚。そうした先生が数人来たところでインパクトはない。当然、バイデン大統領と岸田首相が取り決める案件、とはとても思えない。
実際、MITは約20年前にシンガポールに誘致されて研究拠点を置いた。しかし、看板だけで中身はない。東京でやっても同じ結果になるだけだ。
看板に金を払うくらいなら、その金で日本の拠点をMITにつくるべきだ。
MITから徒歩10分のところに起業のクラスターとなっている地区がある。かつて栄えた紡績工場の跡地が、次々にオフィスへリノベーションされている。私なら、そこに日本館をつくって日本の若手研究者を毎年50人送り込む。ケンブリッジ地区なら研究費さえつけば優秀な先生が教えに来てくれる。しかもバケーションではなく本気モードだ。派遣した人材も現地の優秀な学生などと切磋琢磨し成長するだろう。
海外から最先端技術を吸収する姿勢は大切だ。ただIBMもMITもやり方が悪い。政府には常識のカケラもないが、せめてお金の使い方だけはもっと真剣に考えてもらいたいものだ。
(構成=村上 敬 写真=時事通信)