3つ目は教会だ。カトリックとプロテスタントだけではない。イスラム教徒のモスク、仏教徒用の寺院も必要だ。

これらの3つの条件がいかに重要なのかは、神戸と大阪を比べるとよくわかる。神戸は外国人居留地があったこともあって3つの条件が揃い、P&Gやネスレなど外資系企業が多い。一方、大阪は仕事があるものの、外国人向けの学校や教会が少なく、外資系企業の支店はバイエルなど数少ない。

北海道千歳市は、大阪以上に厳しい。北海道に行きたがるIBMの社員はほとんどいないだろう。

熊本も必ずしも条件がいいとは言えない。ただ、九州はかつてシリコンアイランドと呼ばれていたように、多くの半導体メーカーが工場を持っていた時期があり、自前で技術者を調達できる土壌がある。一方、北海道の大学といえば農学系で、エンジニアを輩出する力は弱い。国内技術者に限っても北海道は不利だ。

北海道には、さらに根深い問題もある。これまで国がやった事業で成功した実績が1つもないのである。

明治時代、政府は屯田とんでん兵を出して北海道で農業を振興させようとした。農業は根づいたが、琴似ことになど屯田村の歴史を活かしたユニークなまちづくりはできていない。その後、豊かな森を活かそうと製紙業に投資したものの、輸入チップが安くなって衰退した。次に室蘭で鉄鋼業を起こしたが、これも世界的な競争力を失って失速。造船業も同じだ。さらに苫小牧東で広大な土地を開発し工場誘致を図ったが、いまやだだっ広い資材置き場になっている。

北海道で唯一成功しているのはインバウンドの観光だ。特にインバウンドに人気なのは美幌峠びほろとうげや周辺の摩周湖、硫黄山など。皮肉なもので、現在の北海道経済を支えているのは、政府が余計なことをせずに手つかずの自然が残った地域なのだ。

観光客ではなくIBMを呼び込むのは産業振興として的外れ。今回のプロジェクトも、北海道産業史の呪縛から逃れられないに違いない。

研究者養成の最適解は誘致ではなく派遣だ!

次に、海外一流大学の日本誘致に関する動きについて見ていこう。

AIなど最先端技術の研究を行う大学を日本に誘致し、人材育成に注力する「グローバル・スタートアップ・キャンパス構想」。その目玉として、政府がMIT(米マサチューセッツ工科大)を誘致することが明らかになった。

MITの誘致は、100%うまくいかない。そう断言できるのは、私がMITを卒業し、経営に参加していたので内実をよく知っているからだ。

実はMITという大学の名称は抽象名詞であり、実態としては存在していない。MITは学部ごとの事業部制で、その上にホールディングカンパニーがある。私はそのホールディングカンパニーのボードメンバーを5年間務めた。実際に経験したからよくわかるのだが、MITは事業部の独立性が強く、ホールディングカンパニーの言うことを各事業部がなかなか聞かない。