いろいろな人を殺し、いろいろな人を結婚させる
ここまでくると、もう福永家の息子たちの行動が少しずつ予測できるようになる。お前の金は俺の金というジャイアンが家に3人もいたら、いくらお金があっても足りない。
東京では謙さんが、関西支社では秀さんが、そして九州支社では充さんが高給取りでありながら、方々で借金をして、経費を湯水のごとく使うようになっていた。
「充は、経費をせしめるために本当にいろいろな人を殺して、いろいろな人を結婚させてましたね。要するに、お葬式や結婚式に参列するといっては、お香典やご祝儀として会社のお金を使ってきたわけです。冠婚葬祭は嘘で、せしめた経費を競艇か競馬に突っ込んでいたんですよ」
当時、関西支社の社員たちが頑張って、新たな業態も展開し、売上を倍増までさせた。ところが、九州支社が足を引っ張る。九州支社の役員たちも充さんの経費使い込みを見て見ぬふりだった。
「もうホントにクズなんですが、充には経費の使い込み以外にも5000万の借金があったんですよ。何に使ったのかは知りませんが。さらには、自律神経失調症だと言い張って、わざわざ九州から東京の病院に通っていたんです。どうやらそこの女医さんに熱を上げていたばかりか、池袋の風俗店にも通っていたらしく。ちなみに充は既婚者です。連れ子がいる女性と結婚しましたからね」
あるときは大阪出張と言って出ていったはずが、なぜか京都の競馬場から会社に連絡が入った。聞けば、『落とし物で、福永充さんのお財布を預かっています』という。名刺が入っていたようで、わざわざ連絡をくれたのだとか。何とも間の抜けた話だ。
血圧は200オーバー、夜も寝られない
「長兄も勝手にクルーザーを不法係留したり、駐車場料金を踏み倒したり、と金に関してのエピソードは尽きません。それに比べれば、充が財布を落とした間抜けな話はまだかわいいもんです。でも、長兄とは縁が切れた一方で、充の問題はまだ残っていましたから、私もこの頃、本当に眠れなくなって。
常に頭の上にやかんをのせているかのように熱くなっていたんですよ。医者に『血圧が測定不能です、すぐ薬を飲んでください』と言われるくらい。私が40代前半の頃でしたね、常に血圧が軽く200超えだったのは」
借金に困って、「父が亡くなった後の相続でもらえる800万をもらっていない、妹が800万の外車を買って使い込んだ」と主張してきたこともあったとか。実は充さんの相続分は母が積立の保険にして、現金を渡さなかったという。
現金を渡したらすぐに使ってしまう充さんを心配しての親心だった。最終的に、使い込みと借金は、充さんの株の持ち分を取り上げることで、合意した。本来なら即刻退任だが、温情をかけてしばらくは傷病手当で暮らせるように整理したという。
家のローンの残金は美華さんが立て替え、退職金も分割で払うことに。株はすべて取り上げたが、実家の土地の名義には充さんも入っている。もし闇金にでも手を出して、実家を担保にされては困る。
「充は平気で闇金に手を出すから。クズは躊躇なくそれをやるんですよ。でもね、最後に300万貸したときに言ってやったんです。『返さなかったら、あんたの借金、ヤクザに債権売ってくるからな! 800万でいつでも買ってくれるヤクザがいるって。私も500万儲かるし。躊躇しねーぞ!』って。本当にそういう人がいて、『九州まで取り立てに行ってくれる?』って聞いたら『最後の最後にな』って。充もさすがにビビってましたよ」