お客さんから預かったお金を使い込む末弟
さて、トリをつとめるのは充さん。美華さんいわく、3人の中でも「最も犯罪者に近い男」。充さんは「車の免許を取る」と言って、母にお金を出してもらっていたが、その全額を競輪につぎ込んでいた。
母は何度もお金を渡していたが、免許は一向に取れないまま、お金が消えていったという。それは充さんが高校生のときの話だ。
「唯一、大学を出たのが充です。といっても、1浪して、コネで入学し、留年もしていましたから、ほめられたもんじゃない。父も充に興味がないというか。そもそも母が大学に多額の寄付金を払って、裏口入学させたことすら知らなかったと思います。そして、唯一父から勘当されたのも充です」
無免許運転で電柱をなぎ倒した長兄の上をいく蛮行とは……?
「なんとか大学を卒業して、生命保険会社に入ったのに、そこで充はお客さんから預かったお金を全部使い込んだんです。母が平身低頭お詫びして、全額弁償しました。『どうか訴えないでください』と。もちろん父には内緒ですよ。
その後、別の生命保険会社に入って、また同じことを繰り返したんです。横領を。会社をやめた後は、方々で借金三昧。父は激怒して『一歩でも家に入ってくるなー!』って。勘当されて当然ですよね」
まさかの「犯人は身内」
家を追い出された充さんは、パチンコ屋に住み込みで働き始めたという。ギャンブルはオールラウンド。秀さんはパチンコと競馬のみだったが、充さんは加えて競艇、競輪、地方競馬までも手を出していた。
「充は謙と仲がいいんですよ。父に勘当されたときも、謙の家に頻繁に顔を出して、ごはん食べさせてもらったりしていたんです。でもね、謙の妻の弟さんが地方から遊びに来たとき、事件は起きたんです」
元来、調子のいい充さんは、知らない人が大勢いる中でも場を盛り上げて人気者になるような、まるで寅さんのようなタイプだという。弟さんとも意気投合して、一緒にパチンコに行ったりしていたのだが、弟さんが東京に滞在中にキャッシュカードを紛失。お金を使い込まれたため、警察に届け出た。
「警察から連絡があって、『引き出した犯人が捕まりました』と。弟さんが確認しに行ったら、充だったっていう……もう終わってるでしょ? でも謙が箝口令を敷いて、父には知らせなかったんです。弟さんには詫びて、お金は母に払わせたんですよ! 私は『警察に突き出せばよかったのに!』って言いましたけど」
その借りもあって、充さんは謙さんに対して下手に出るようになる。謙さんも自分の手下がほしかったようで、父が亡くなった後、充さんを会社に呼び寄せ、九州支社を任せた。