きょうだい仲よしなんて嘘臭い

実は、充さんは数年前にがんを患った。もともと九州支社の人間から、充さんが長くないことを聞いていた美華さん。最期、もう呂律が回らなくなっていたときに「妹に感謝してる」と言っていたことも聞いた。一応、余命僅かであることは秀さんにも伝えたが、「知らねえ」の一言で終わり。

「交通費を出すから、面会に行ったほうがいいと言ったんですが、秀は行かなかった。ところが、亡くなった後で『なんで充が死んだことを伝えなかったんだ!』と激怒していて。もうよくわかりません」

充さんの妻から連絡がきたが、美華さんも葬儀には行かないと伝えた。

「これでもう私に借金をすることはないのよね、と確認しました。母は一応、赤ちゃんの頃から育てた息子だからか、『私も葬儀に行ったほうがいいかしら?』とか言ってましたけど、充の死については、『よかったわね、これでもうお金借りてくることはないじゃん。成仏してくれればいいね』って明るく言ってましたね。決して悲しいとかではない」

美華さんにはやっと平穏が訪れるはずだったが、もうひと波乱あったそう。

「充は生前の借金を『俺が死んだらこのマンションを美華にやるから、それで返してくれ。お前しか身内はいないから』とか言っていたんです。ローンの残債もすべて私が払いましたからね。

ところが、充の娘(嫁の連れ子)がいつの間にか養子になっていたため、マンションはそっちに渡ってしまった。嫁も『充さんが勝手にやったことですから』って。充の負債を私が処理したことも嫁は知っているのに、私に返済するどころか感謝の一言もない。頭にくるけど、もう仕方ない。忘れました」

冷蔵庫の飲み物が冷たいだけで幸せ

そして昨年から母は施設に入った。軽度の認知症もあって、夜中に冷蔵庫を開けっぱなしにしたり、美華さんの姿を探して、真夏の日中に家の前でずっと立ち尽くして熱中症になったこともある。住まいが変わることに抵抗があると思いきや……。

「若いイケメンの介護福祉士が優しくかまってくれるので、母もご機嫌ですよ。私が家で優しくしないからね。オンラインで対話したんだけど、もうニッコニコしてて」

美華さんの血圧は下がり、夜はぐっすり眠れるようになったという。母が開けっぱなしにした冷蔵庫にウンザリすることももうない。冷蔵庫の中の飲み物が当たり前に冷たいことに美華さんは大きな喜びを感じているそうだ。