岸田内閣の支持率が回復したのは、私が「10兆円行進曲」と呼ぶ政策の影響もある。国際卓越研究大学に10兆円ファンド、子ども予算の倍増(現状約10兆円規模の「家族関係社会支出」を倍増すると、2月の衆院予算委員会で答弁。のちに答弁修正)と、次々にテーマを出しては10兆円単位の予算を気前よくつけていく。

アメリカでは政府の総負債残高が約32兆ドルとなり、法定上限を突破した。議会と上限引き上げで合意できなければデフォルトする。バイデン米大統領は今回のサミットへの出席も危ぶまれたほどで、会期中も頭の中は議会との交渉でいっぱいだったはずだ。アメリカ政府の総負債残高法定上限は、GDP比で120%超。政府債務が約250%の日本で岸田首相がポンポン予算をつけていくのとは対照的である。

精力的な外交と10兆円行進曲で、岸田内閣の支持率は上がった。しかし、日本が抱える大問題については放置したままである。

日本のGDPはドイツ、インドにも抜かれて5位へ転落する見込み

日本のGDPは23年中にドイツ、そして2年以内にはインドにも抜かれて5位へ転落する見込み。その後、日本のランキングが上昇する期待はない。そこに何も手を打たないままなのだ。

景気低迷
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原因は明確だ。日本に繁栄をもたらした工業化社会では、過去の経験の中に答えがあった。たとえばエチレンのプラントをつくるとき、パイロットプラントをつくった経験があれば次に20トンのプラントをつくりやすいし、20トンの経験があれば100トンも難しくない。工業化社会で成長するには、先を行く経験者が持つ答えを再現すればよく、日本はそれが得意だった。

しかし、現代は答えのない時代だ。答えがある間接業務は、コンピュータが人間以上に速く正確に処理してくれる。人間が取り組まなくてはいけないのは、答えが用意されていない問題に向き合い、答えを見つける作業である。

社会から求められる能力が変わったのに、日本はいまだ答えが用意されている問題を解く教育しかしていない。答えがある問題は、答えを暗記すると点数を取れる。しかし、記憶力でコンピュータにはかなわない。にもかかわらず、日本の教育システムはコンピュータに勝てない人材をせっせとつくり続けている。そんな有様では、私が「第四の波」と呼ぶサイバー&AI革命の時代を勝ち抜けるわけがない。

答えのない時代にいち早く対応したのが北欧諸国だった。先陣を切ったのはデンマークだ。1994年に教育制度を変えて、現場からティーチ(教える)という言葉を一掃した。ティーチは答えがある時代の概念であり、答えのない時代では生徒が自分で答えを見つけられるようにする、ファシリテート(促進する)こそが重要だと強調した。この教育改革には、スウェーデンとフィンランドもすぐに後追いした。