負ければタダ働き、精神が蝕まれていく

そして、コンペ案件は金額面も非常にシビアです。

クライアントのお眼鏡に適って採用されれば多額の広告制作費が入ってきますが、獲得できなければ、少額のプレゼン費(10〜20万円)しか支払われません。会社レベルで見ればタダ働きのようなものです。

コンペは勝たなければ意味がないので、この仕事に関わる人たちは勝つために深夜まで残業し、徹夜をし、6時間にもわたる長時間の打ち合わせも平気で行います。定時など関係ありません。

この仕組みが広告業界のブラック労働の原因であり、この仕組みによってみんな精神を病んでいきます。

疲れ果てた人
写真=iStock.com/Motortion
※写真はイメージです

あえて、良い点があるとすれば、必死だからこそ実力が磨かれ、成長するというのはあります。

ブラック環境で生き抜いてきた猛者たち

しかし、これだけ過酷な労働環境でもみんな文句も言わず黙々と働きつづけています。なぜかというとこの仕事に携わっている人は“超仕事好きな人たち”ばかりだからです。

仕事のためなら食事もせず、睡眠も削り、プライベートの時間もすべて仕事に費やします(中には器用にプライベートも充実させている人もいます)。

並々ならぬ気持ちで仕事に取り組んでいる人がとても多いです。そして仕事に人生を費やした末に独身でいる人も多いです。知り合いの事務所や広告制作の会社も独身の人が多く、40代以降の女性の独身率がかなり高いです。みんな猫を飼うなどして心の隙間を埋めています。

40代の先輩たちは今よりもさらにブラックな環境で生き抜いてきた猛者たちです。そんな大先輩に尊敬の念も抱いていますが、一生孤独に生きつづける人生は回避したいです。

僕が仕事で関わっている人たちもバイタリティがあって、広告の仕事を通して何か面白いことをしてやろうという熱い思いを持っていて、何か自己実現をしたいと考えている人たちがとても多いと感じます。

中には仕事の枠を超えて、個人でクリエイティブな活動をしている人たちもいます。

僕も今までの人生でそういった方々が身近にいたので、そんな人たちから影響を受けていたのかもしれません。