それは、「いつの間にか健康になっている」状態
社会疫学で明らかにされた救いのない事実から、運動不足の人がただ「もっと運動するべきだ」と言われても、運動習慣がつかないことがわかります。
そこで近年、注目されているのが「ナッジ理論」。ナッジとは提唱者であるリチャード・セイラーさんがノーベル経済学賞をとったことで有名になった「そっと後押しする」ことを意味する行動経済学の言葉です。社会疫学では「本人に自覚がなくてもいつの間にか健康になっている状態」を目指す取り組みのことを指します。
例えば「距離は短いが歩道がなく危険なので車で移動せざるを得ない道」があるとします。そこに歩道を整備すれば「歩こう」というインセンティブになり、これをハード面でのナッジと呼びます。道路のようなインフラの形を変えてしまえば、どんなに運動が面倒くさくても、人は行動を変えざるを得ないのです。
ナッジのいいところは、学歴や所得などの社会経済状況に関係なく、みんなが健康になることです。学歴や所得があってもなくても、その方が便利であれば、前述の道を歩くでしょう。
とはいえ、“道”のようなインフラの例=ハード面のナッジは、あまり再現性がありません。そこで近年、注目されるようになったのが、ソフト面のナッジです。
習慣化の極意は、“趣味”にすること
例えば、2016年頃から流行している『ポケモンGO』は、ゲームのプレイ要素の中に「歩行」「移動」を盛り込んでいます。『ドラクエウォーク』も同様です。これらのゲームが楽しくて好きになればなるほど、人は自然と歩くようになり、健康にもいい影響があるということになります。これがソフト面のナッジの例です。
特にゲームは、「ゲーミフィケーション」という概念があるように、それ自体が楽しく、習慣化に果たす役割が大きいものです。「夜中までゲームをしてしまった」があり得るように「昨日はポケゴーのために20キロメートルも歩いた」があり得るのです。
3割の意思の力の使い道が見えてきました。「推し」でもいいし、『ポケモンGO』でも『ドラクエウォーク』でもいいので、「楽しくて好きになるもの」を3割の意思の力で探すことです。世の中にはこうしたナッジの性質を持つレクリエーションが無数にあり、それが「趣味」と呼ばれてきました。趣味であれば、環境が変わっても、自発的に続けたいと思えるはず。習慣化の極意は、つまり、趣味化だったのです。
たかがゲームと思うことなかれ。なんと、コロナ禍を経た今は、フィットネスをテーマにしたゲームが世界的にもブームで、たくさんの人が健康目的でゲームをしているのです。