肥満者は未来よりも目先の利益を優先しがち
これは「時間選好率」という言葉で説明することができます。中央大学名誉教授の古郡鞆子さん・同大経済学部准教授の松浦司さんの『肥満と生活・健康・仕事の格差』(日本評論社)では、肥満者について以下の傾向を紹介しています。
一連の研究では、肥満者は(中略)時間選好率が高い傾向があることが報告されている。時間選好率が高いということは、今日食べたり、飲んだりして得られる満足度を、将来健康であることの満足度より高く感じてしまうことを指す。
ハッとした人も多そうです。簡単に言えば、肥満者は未来の利益よりも目先の利益を優先してしまう傾向がある、ということです。つまり、肥満は人間がもともと持っているこうした傾向を強めてしまうのです。
階段がキライな理由が「疲れたくない」なのだとしたら、結果的に歩く距離や時間、運動量、消費カロリーが増える行為(=遠くの横断歩道まで歩く)は本末転倒です。それでも、後者を選んでしまうのですから、それだけこの「肥満思考」とでも呼ぶべきものは強固なのです。さらに、ここに学歴や所得、職業、人とのつながり、政策、文化、景気なども影響しています。
痩せたいという意志は3割あればいい
私が上梓した『健康診断で「運動してますか?」と言われたら最初に読む本 1日3秒から始める、挫折しない20日間プログラム』(KADOKAWA)では、「うつ思考」も紹介しています。思考のくせは不健康を生み、不健康がさらに思考のくせを強めてしまいます。私たちが健康になるためには、どこかでこの負のスパイラルを断ち切らなければならないのです。
そのためには、新しい習慣をつけるためのコスト、それも今の習慣を続けたい欲を抑えてまで目先の利益のないことをするのに十分なサポートやインセンティブが必要になります。これは個人の意思の力だけではどうにもならないことなので、メンタルを変えたいなら、別のアプローチをする必要が出てきます。
本書では、健康になるには「意思の力ではなく、環境を変えることが必要」とも紹介しています。これはどんな根拠によるものかというと、例えばマンチェスター大学のトーマス・ウェッブさんらが複数の研究を分析した結果によれば、運動習慣をつけようとするとき、人の意思の影響は3割に止まることがわかっています。残りの7割は環境などその他の要素でした。
だとしたら、です。意思の力は3割でいいとも言えるのではないでしょうか。