英国系インターナショナルスクールの日本進出が相次いでいる。全寮制で年間費用は600万~800万円。しかも日本の義務教育としては認められていないが、それでも日本人の生徒が増え続けている。いったい何が起きているのか。国際教育コンサルタントの村田学さんが解説する――。
教室で肩を組んでいる男の子たち
写真=iStock.com/Vladimir Vladimirov
※写真はイメージです

中国から日本へ「英国教育輸出」の転換

英国系インターナショナルスクールの日本進出が相次いでいます。

2022年8月に開校した「ハロウインターナショナルスクール安比ジャパン」(岩手県八幡平市)に続き、今秋には「ラグビースクール・ジャパン」(千葉県柏市)と「マルバーン・カレッジ東京」(東京都小平市)が開校します。

2023年9月に開校予定のマルバーン・カレッジ東京の校舎。開校当初はデイスクールのみだが、将来的にはボーディングスクールも併設予定でキャンパス内に敷地を確保している。
写真提供=マルバーン・カレッジ東京
2023年9月に開校予定のマルバーン・カレッジ東京の校舎。開校当初はデイスクールのみだが、将来的にはボーディングスクールも併設予定。

ハロウとラグビーと言えば、英国のエリート私立校(パブリックスクール)を代表する9校「ザ・ナイン」に名を連ねる名門校。マルバーンもノーベル賞受賞者などを輩出している伝統ある私立校です。いずれもオックスフォードやケンブリッジをはじめとする難関大学に多くの卒業生を送り込んでいます。そんな名門私立校が、なぜ遠い日本に系列のインターナショナルスクールを開校しているのでしょうか。

マルバーン体験会でラグビーを教わる参加者たち(2023年5月20日)。
写真提供=マルバーン・カレッジ東京
マルバーン体験会でラグビーを教わる参加者たち(2023年5月20日)。

実は英国の名門私立校の海外展開は今に始まったことではありません。英国は教育を自国の言語と文化を他国に広げることができる「コンテンツ産業」と位置付け、EU離脱の議論が始まった頃から、国家戦略として教育輸出を進めてきました(※1)。幼少期から英国式の教育を受け、その文化に親しみを持つ人を増やすことは、将来の優秀な人材獲得や英国のプレゼンスの維持向上につながります。教育省のダミアン・ハインズ氏(当時)は、教育は2016年の一年間だけで200億ポンド(日本円で34兆8000億円)を英国にもたらしたと語っています(※2)

こうしたなかで英国がターゲットとしたのが、経済成長著しい中国でした。ハロウの系列校は北京、重慶、香港、海口、南寧、上海、深圳、珠海と実に8校も中国に開校しています。しかし近年は、その戦略に見直しが迫られています。

もともと英国はカリキュラムなどの教育のソフト面を提供し、学校用地の取得、施設の建設から学校の運営・経営については中国資本に任せるというやり方で開校してきました。しかし、習近平政権になってから教育に対する中国政府の統制は強まりました。中国人の子供を受け入れているインターナショナルスクールでは中国のカリキュラムで教育することが求められ、理事会の構成員は全て中国人とした上で共産党の担当者の参加まで義務付けられるようになりました。こうした状況に中国における英国式教育事業の先行きに不安を抱き、進出計画を断念する学校も出てきています(※3)

そこで名門私立校の関係者が目を付けたのが、隣にある法治国家で政治的にも社会的にも安定した民主主義国家の日本だったわけです。

※1 英国政府「国際教育戦略 世界的なニーズと成長」(2021年2月)
※2 英国政府 教育省ダミアン・ハインズ「数十億に及ぶ教育の英国経済への貢献」(2019年1月)
※3 ウェストミンスター校、中国進出を断念