コロナ禍で進んだ「教育亡命」

コロナ禍で、この傾向にさらに拍車がかかりました。

一般の学校(私立校も含む)に子供を通わせている人々から、インターナショナルスクールへの進路相談を請け負っている私の元に「インターナショナルスクールへの編入は可能か」とか「子供をハワイの学校に行かせたいのだが」といった相談がいくつも舞い込むようになりました。その多くは「シン・富裕層」と呼ばれるIT系の起業家で、子供の教育には金に糸目を付けない人々です。

彼らはコロナ禍に自宅でリモートワークをしている最中にかたわらで子供たちが受けているオンライン授業を見て、旧態依然の授業のやり方にあぜんとしたそうです。そして、これからの社会を生き抜くのに重要な課題発見力や問題解決力を育てられないという危機感をいだき、将来の留学も見すえて英語で授業を行うインターナショナルスクールに通わせたいと考えるようになったと言います。

インターナショナルスクールは高額な費用がかかります。新設校で年間150万円、老舗校で250万円、全寮制のボーディングスクールでは寮費とあわせて600万~800万円程度の費用がかかります。ただ、クレディ・スイスの予測では、100万ドル以上の資産をもつ日本人の成人の数は2021年の336万6000人から2026年には42%増の479.0万人になると予測されています(図表1)。つまり、インターナショナルスクールを選ぶ層は今後も増えていくと言えるでしょう。

【図表】2021年と2026年のミリオネアの数、地域・対象国別
出所=クレディ・スイス「グローバル・ウェルス・レポート 2022」

義務教育の形骸化が加速する

日本で法整備のないインターナショナルスクールに通わせたいという人が増えている現状に、筆者は懸念を抱いています。

とくに問題だと感じるのは、株式会社が運営する無認可のインターナショナルスクールです。カリキュラムの自由度が高いため、国際バカロレア(IB)のような国際的な認証を受けている学校は別として、教育の内容やレベルは学校次第。一条校なら守らなければならない施設や教職員の配置に関する基準も適用されません。現状、文科省はどんな教育が行われても口出しができません。

つい先日も港区のインターナショナルスクールが家賃滞納により閉鎖となり、年間500万円にも及ぶ授業料の返還を求める保護者とトラブルになっているとの報道がありました。ここは、近年急速に増えている0~6歳を対象としたプリスクールの一つです。プリスクールの多くが株式会社立で認可外保育施設として運営されており、今後も同様の問題が出てくるのではないかと危惧しています。

さらに先に述べたように義務教育期間に子供をインターナショナルスクールに通わせると日本の義務教育を受けたと見なされないため、子供を地元の公立校に形だけ在籍させて、卒業資格を得ようとする親もいます。港区や渋谷区、世田谷区など、インターナショナルスクールに通う子が多い自治体では、掛け持ちを認めていませんが、先に紹介した「教育機会確保法」に照らすと、今後は認めざるを得ないでしょう。そうなれば義務教育の形骸化が加速する恐れがあります。