エンジンを吹かしてプレッシャーをかける人も

たいていは、窓を開けて、停車中のクルマのドライバーに届くように大きな声で、「クルマを移動してください」と声がけする。知り合いの運転士の中には、わざとバスのエンジンを吹かしてドライバーにプレッシャーをかけるという人もいる。この手法は相手に伝わればいいが、やりすぎるとトラブルになりかねない。

バス停に停車しているクルマに人が不在の場合もある。まず車両の前か後ろにバスを停車させる。バスには車外マイクと車内マイクがついているので、バス停で待っている人には車外マイクで移動をお願いし、降車する人には車内マイクで案内する。どちらにせよ、バス停からズレた場所での乗降扱い(*5)になるため、前後左右の安全確認が必須である。

このように、バス停に一般車が停まっていると、利用者を危険にさらすことになりかねない。一般車のドライバーの方々、バス停にクルマを停めないでください。そして、どうかクラクションを鳴らされた程度で怒らないでください。

(*5)バス停からズレた場所での乗降扱い:片側が2車線以上ある道路では、停車しているクルマの横にハザードランプを点けて停車し、安全を確認してから乗降を行う場合もある。そんなときに限って、料金支払いに手間取る乗客がいて、後続車にクラクションを鳴らされたりする。道路交通法では、バス停から10メートル以内の場所では一般車両の駐停車が禁止されている。ご注意ください。

路線バスがお昼時でも混雑するワケ

私が路線バスを運転している地域は、お昼時でもかなり混雑する。

住宅街を走る路線バスの多くは、朝や夕方の時間帯は通勤・通学の人で混雑するが、お昼時は空いているのが一般的だ。ではなぜ、この地域はお昼時でも混雑するのか? それは、この地域には、路線バスに何度でも乗車できる「敬老パス(敬老特別乗車証)(*6)」を持っている人=高齢者が多いからである。

バス停に並ぶ人々
写真=iStock.com/oliver de la haye
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敬老パスは、高齢者福祉サービスの一環として自治体が補助金を出して発行している。だから、申請すれば格安で購入できる。敬老パスを手にしたお年寄りたちは、お昼時に、買い物や病院や公共施設などに行くために、さらには家にいても暇だからという理由で路線バスに乗ってくる。お客同士にも顔見知りがいて、「昨日今日と梅沢さんの顔を見ないねえ」などとほのぼのした会話が展開されることも少なくない。

ある日の穏やかな昼下がり、始発である桜木町のバス停(*7)で乗車手続きをしていたところ、お客たちが次から次へと敬老パスを提示して乗車してきた。その数、じつに40名。なんと乗客全員が敬老パスの利用者であった。

(*6)敬老パス(敬老特別乗車証):たとえば横浜市では、市内に住む70歳以上の希望する人が、所得金額に応じて、年額3200円~2万500円で交付を受けられる(障害者は無料)。これで、市営バスや民間のバス、市営地下鉄は乗り放題。2022年10月からは紙製の敬老パスは廃止され、ICカードに変更された。これにより、利用実績を正確に把握するのだという。どれほどの高齢者がバスを利用しているかが浮き彫りになるだろう。
(*7)ここはいくつかのバス会社のバスが乗り入れており、ラッシュ時には3分刻みでバスが出ていく。前のバスが出発に時間を要していると、それにより自分のバスの運行時間に遅れが生じてしまうことも。