栗田はEAT(グルメハンバーガー)というテナントの取り扱いを獲得しているのだが、キリンはオープン直前までEATというテナントが入ることをキャッチできていなかった。
栗田は乏しい情報からEATが入るのではないかと当たりをつけ、経営者を数回にわたって訪問し出店の確証を得ている。しかし、もともと他社のビールを扱っており、キリンが入り込む余地はなかった。
流れが変わったのは、EATの担当者小泉勉に「一番搾りフローズン生」の説明をしたときだった。栗田が言う。
「昨年、某テーマパークでテスト販売をしたら、めちゃくちゃ結果がよかったんです。その話を小泉さんにしたら……」
食いついたのだ。小泉が言う。
「プラスチックのカップに入ったフローズンの生ビールを片手に持ちながら歩くって、ライフスタイルとしてすごいカッコイイですよね。キリンさんがそういうライフスタイル提案をしていることに、すごい共感してしまったんですよ」
栗田は、すかさず小泉をフローズンの試飲に招待する。キリンは日本橋のビルの一角にフローズンのサーバーを設置し、試飲の手はずを整えていたのだが、小泉はその第一号体験者となったのである。
「もしも試飲のとき、キンキンに冷えたグラスで出されたらぜんぜん響かなかったと思う。だって、店内でしか飲めないじゃないですか。それじゃあ、ライフスタイルの提案がぜんぜん見えてこない。僕ら感性で仕事してるんでね」