ロシア軍の防御が比較的に薄い場所を見つけ、局所的で一時的でもいいから圧倒的な火力を見せつける。そして敵がひるんだところで前進し、敵陣の後方に回り込む。ウクライナ側が最初の24時間を制し、戦略的な突破口を開くには、おそらくこれしかない。

緒戦で死活的に重要なのは戦術的なリーダーシップだ。つまり戦場の最前線で臨機応変に対応し、命令を下し、結果を出せる下級レベルの指揮官の存在である。

問われる現場の指導力

そもそも軍事作戦は、とりわけ大規模な攻勢は「組織化されたカオス」でしかあり得ない。考えてみればいい。進撃する部隊が道を間違える可能性もある。敵の通信妨害で部隊間の連携が崩れる恐れもある。進撃中に、敵がどこに潜んでいるかを正確に把握することも難しい。

こうした不確定要素、つまりカオスに打ち勝ち、少なくとも軽減するためにはしっかりとした戦術的リーダーシップが欠かせない。

戦場での統率力も死活的に重要だ。これは現場の兵士たちの士気を大きく左右する。指揮官が戦場での混乱に圧倒され、うろたえるようでは、兵士たちは指揮官を信頼できず、たちまち士気を失う。そうなったら、攻撃の緒戦でパニックに陥るのはウクライナ兵のほうだ。

前線の戦術的指揮官はロシア軍の防御の弱点を見抜き、できるだけ多くの機甲部隊をその場に投入し、素早くロシア軍の後方に回らせなければならない。

そのためには、たとえ空からの支援を望めない地点であっても進出し、敵と戦う必要があるだろう。大きなリスクを伴うから、隊員の士気が高くなければ勝ち抜けない。

反転攻勢を仕掛ける前に、こうした戦術的リーダーシップと兵員の士気において優位に立っていること。これが大事だ。そうすればパニックを起こさず、最初の24時間を超えても戦術的優位を保てる可能性が高い。

戦術的サプライズと現場の統率力、兵員の士気に加えて、反転攻勢の成否を左右する要因がもう1つある。ロシア側が後方待機の部隊を前線へ送るのをどれくらい遅らせられるかだ。ここでも最初の24時間がカギとなる。もしも最前線でパニックが起き、逃げ帰る兵士や車両で道路が塞がれたら、後方の部隊はなかなか前線に到達できない。

いずれにせよ、来るべき春の攻勢の最初の24時間はウクライナの「いちばん長い日」になるだろう。現在のような砲撃の応酬を繰り返す消耗戦が長く続けば、どう見てもウクライナ軍は苦しい。だから、まずは反攻の緒戦で敵の指揮命令系統を麻痺させ、兵員のパニックを誘い、敗走させること。それができれば、少なくとも戦術的な戦果にはなる。

むろん、それが長期にわたる戦略的優位に、いわんやこの戦争の勝利につながるかどうかは、また別な話だが。

From Foreign Policy Magazine

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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