武漢のウイルス研究所が疑われている理由

新型コロナウイルスのパンデミックは、私たちの生命と暮らしに深刻な影響をもたらしてきた。英ガーディアン紙は、2020年初頭から新型コロナウイルスが広く拡散し、世界中で700万人近い死者を生じたほか、交易や旅行にも深刻な影響を及ぼしたと振り返る。

このパンデミックの起源が武漢のウイルス研究所からの漏洩であるとする説に、どの程度妥当性があるのだろうか。少なくとも、米エネルギー省が今年2月に発表した報告書は、この見方を一定程度肯定する内容となっている。報告書はあくまで「信頼度低」の確度としているが、アメリカのメディアに広く取り上げられた。

分析の経緯の子細は明かされていないものの、「中程度の信頼性」で研究所漏洩説を示したFBIとは異なるプロセスを経て、同一の結論に至ったという。

エネルギー省はエネルギー問題だけを扱う機関でなく、全米の国立研究所のネットワークを統括している。このことから同紙は、今回の発表は「重大な意味を持つ」とみる。

パンデミック直前には研究者の体調不良が報告されていた

アメリカでも研究所漏洩説は、いまだ関心を集めている。ウォール・ストリート・ジャーナル紙はまた、アメリカでの議論の推移を振り返っている。当初、過去と同様に動物から人間への自然感染による発生説が大半を占めたものの、時間が経過しても動物の宿主が見つからなかった。

このことから、武漢のコロナウイルス研究が注目を集め、次第に実験室からの意図しない流出が議論されるようになったと同紙はまとめている。

ただし、アメリカの国家情報委員会など5つの機関は「低い信頼性」で自然感染説を支持しており、2つの機関は結論を保留するなど、必ずしも研究所漏洩説が主流となっているわけではないようだ。

一方で同紙は、2019年11月の異変を取り上げている。新型コロナウイルスが報告される直前のこの時期、武漢ウイルス研究所の研究者3人が体調に異変を来し、病院での治療を必要とするほどの事態となった。記事はこうした事実も、研究所起源説を示唆する今回のエネルギー省発表を裏付けるものであると論じる。

武漢ウイルス研究所
武漢ウイルス研究所(写真=Ureem2805/CC-BY-SA-4.0/Wikimedia Commons

「大きな問題は、中国が協力的でないことです」

パンデミックとの闘いは3年以上続くが、いまだ出所の確定に至っていない。これほどまで時間を要している理由は、中国政府の非協力的な態度にあるとの見解も聞かれる。

ウォール・ストリート・ジャーナル紙のリポーターであるマイケル・ゴードン氏は、米国営ラジオ放送局のNPRに出演し、「大きな問題は、中国が協力的でないことです」と指摘している。