手袋なしでコウモリの排泄物を採りに行く研究員

渦中の武漢のウイルス研究所でも、2019年以前、研究員たちが危険な状態で調査に臨んでいたことがわかっている。同紙によると、研究員たちが2万個のウイルスサンプルを収集した際の写真がソーシャルメディアで公開されている。

記事は問題の写真を基に、「感染症を媒介する何千匹ものコウモリがひしめく洞窟で研究者たちが作業にあたり、意図しない感染を防ぐために必要な手袋などの防護具を時として使わず、コウモリとその排泄物を扱っている様子が写っている」と指摘している。

衛生状況も好ましくないようだ。武漢のメインキャンパスから少し離れた場所では、武漢大学が「レベル3」の研究施設を運営している。中国当局が2019年10月に立ち入り検査を行った際、そこには「多くのゴミ」があり、研究室は「過密かつ混沌こんとんとしている」状況だったという。

もっとも、感染事故や漏洩事故が起きているのは中国の研究所だけではない。ボイス・オブ・アメリカは、最新の注意を払って運営されている欧米の研究所であっても、事故は起き得ると指摘する。例としてメリーランド州の米国陸軍感染症研究所では、人への感染には至らなかったものの、漏洩事故が過去に数回発生しているという。

ロックダウン中の上海・徐匯市
写真=iStock.com/Graeme Kennedy
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資金難で安全性が後回しになっている

だが、中国では状況はさらに深刻だ。武漢大学の件では検査報告書が、「実験と生活エリアが(中略)分離されていない」問題があり、「化学廃棄物と生活廃棄物が混在している」との課題を挙げていた。こうしたことからワシントン・ポスト紙は、欧米ならば遵守して当然のはずの基準が中国では無視されていると指摘している。

ボイス・オブ・アメリカは、アメリカが2016年に行った中国のバイオセーフティーに関する検査結果を引用し、中国では「実験室のバイオセーフティーを専門とする役人、専門家、科学者が不足している」と述べている。

原因は資金難にあるようだ。ワシントン・ポスト紙によると、武漢ウイルス研究所のユアン・ジーミン副所長は2019年、科学ジャーナル『Journal of Biosafety and Biosecurity』に寄せた原稿のなかで、「日常的だが重要なプロセスに回せる運営資金が不足している」と認めていた。

ジーミン氏はさらに、「現在、ほとんどの研究所には、専門のバイオセーフティー管理者やエンジニアが存在しない」とも明かしている。

バイオセキュリティの専門家であるロバート・ホーリー氏は、同紙に対し、「(中国の)バイオセーフティーに関する訓練が極小であることは、非常に、非常に明らかである」と強調した。