研究所の設計は「欧米並み」と言われているが…
新型コロナウイルスの震源地となった武漢でも、状況は同じだ。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、武漢だけでも複数の研究機関が存在すると指摘している。
その多くは、2002年からのSARSの流行という「中国のトラウマ的な経験」を受け、新設あるいは拡張されたものだという。武漢ウイルス研究所のほか、中国疾病管理予防センターや、ワクチン研究所のキャンパスなどが立地する。
だが、欧米のバイオセーフティー・レベルを満たすよう設計されたこうした研究所も、不十分な生物学的管理体制により、常にウイルスの漏洩リスクを抱えながら運営されている状況だ。
ボイス・オブ・アメリカは、世界最高レベルであるバイオセーフティー「レベル4」の基準を満たすよう、武漢の研究所が設計されていると紹介している。しかし記事は、「ラボの設計(だけ)では、訓練不足やヒューマンエラーを補うことは不可能である」とも指摘する。
ワシントン・ポスト紙によると、バイオセーフティー「レベル4」の施設では、危険度や感染性が最も高い部類のウイルスを扱うべく、部屋全体が気密室として設計されるという。給排気の両方にHEPAフィルターを用い、さらに室内にクラス3のバイオセーフティー・キャビネットを設置し、そのなかでウイルスを操作する徹底ぶりだ。
安全管理は手抜き、実験動物を外に持ち出すケースも
入室者は全身を与圧スーツで覆い、室内の空気の流入を避ける。入室までに4枚の扉をくぐる必要があり、各部屋で更衣、スーツ着用、殺菌剤のシャワーを浴びるという厳格な手順が定められている。
しかしワシントン・ポスト紙は、「ところが少なくとも一部の研究所において、スピードと野心から時に手抜きが行われることがあった」と指摘する。
武漢に位置するある「レベル4」研究室では、フランスの設計による万全の対策が期待されていた。ところが同紙によると、中国当局は段階的にフランス企業を締め出したという。コスト削減の目的の下、複数の重要な安全装置を、「レベル4」基準でテストされたことのない地元製の部品に置き換えた。
これとは別に、人為的に漏洩の危険が生じたケースも確認されている。中国の農業大学の研究所に勤めるある58歳の教授は、実験で使用された動物を違法に販売したとして、逮捕・起訴された。
ワシントン・ポスト紙は、実験動物に触れたことで感染被害が生じたかは不明だとしながらも、同件に触れた報告書が「公の場ではまれにしか言及されない安全性の問題を公式に認め」る内容になっていると報じている。