中国政府は「感染症史上最大の実験室事故」を隠蔽

問題の医薬品工場は、ブルセラ症のワクチンを製造していた。周囲には高層マンションが立ち並ぶ立地上、一度漏洩が起きたなら住民に多大な影響を生じることは明らかだ。だが、生物学的な処理体制は明らかに不十分だった。

このワクチンの製造においては、発酵タンクに生きた細菌を投入し、工程の最後に化学消毒剤を用いて病原体を死滅させる。だが、地元メディアの情報を基にワシントン・ポスト紙が報じたところによると、工場は2019年7月以降、使用期限を大幅に超過した化学物質を使っていたという。廃棄物処理の工程が設計通りの水準で機能せず、多くの細菌が生きたまま外部へ排出されることとなった。

ギリシャの感染症専門医であるゲオルギオス・パッパス氏は、報告書を通じ、「排出された気体には、エアロゾル化しやすいことで知られる病原体が含まれており、それが南東の風に乗って運ばれた」と指摘する。結果、「感染症史上最大の実験室事故となった」という。

だが、政府の隠蔽いんぺい体質がこの一件の情報拡散を封じた。事故から3年以上が経ったいま、1万人以上が漏洩により健康被害を受けたというデータは、公式な記録として残っていない。パッパス氏は「まるで患者が存在しなかったかのようです」と憤る。

蘭州とカラフルな黄河
写真=iStock.com/Alberto Sánchez cerrato
※写真はイメージです

アメリカ政府が「新型コロナは中国から広まった」と主張する理由

新型コロナウイルスの起源をめぐっては、これまでに、野生動物や市場を発生源とする自然由来説が提示されている。一方、武漢のウィルス研究所からの漏洩が原因だとする説も、いまだにアメリカの複数の政府機関から支持されている。

米国営ラジオ放送局のボイス・オブ・アメリカはパンデミックの到来から間もない2020年4月の時点で、1500種以上のウイルスを保管する武漢の研究所が「少なくとも2年前から、米政府関係者のあいだで懸念の種となっていた」と指摘していた。

武漢大学のヤン・ジャンキ病原体生物学部長は2020年2月、中国国営メディアの環球時報によるインタビューに応じ、「中国の研究所は生物学的廃棄に十分な注意を払っていない」と指摘している。研究所から排出されるゴミには、人間を含む動物に致命的な影響を与えるおそれのある人工的なウイルスや、細菌・微生物が含まれていることがあるという。

同紙はまた、2004年に別のコロナウイルスの漏洩が起きていたと振り返る。SARS(重症急性呼吸器症候群)コロナウイルスの小規模な感染が発生しており、これは研究所におけるウイルスの不活性化処理が不十分であったために発生したものであったと同紙は指摘する。