もちろん生まれて持った身体の性別よりも、性的アイデンティティーが重んじられることについて、ドイツでも懸念の声はあります。特に、女性専用のDVシェルター(Frauenhaus)にトランス女性が入居することへの懸念です。

DVシェルターには、家庭内暴力から逃れる多くの被害女性たちがいます。一部フェミニストたちは、身体的には男性であるトランス女性が来ることで心身ともに傷ついた女性がさらに傷つく恐れがあると訴えています。

しかし日本のように「トランスジェンダー」という言葉を聞くやいなや、すぐに「トイレ」の問題に焦点を当てることはありません。理由を考えてみると、ドイツと日本の「女性の生き方の違い」や「寛容さの違い」に行き着きます。

ブラジャーを外して日光浴を楽しむミュンヘンの女性たち

ドイツ人が男女の壁をどう考えているのか。それを端的に表すのが「女性の裸」に対する認識です。

日照時間が少ないドイツでは「日焼けが趣味」という人が少なくありません。多少肌寒くても、少しでも太陽が出ると、街中のオープンカフェはテラス席で、つかの間の太陽の日差しを楽しむ人たちであふれかえります。

FKK(Freikörperkultur)と呼ばれる「裸体主義」(ヌーディズム)が19世紀から盛んなドイツでは、夏になると、公園や川沿いで裸で日焼けしている人もいます。女性も「日焼けの跡がつかないようにきれいに焼きたい」などの理由からトップレスで日焼けしていたりしますが、猛暑日の多かった2019年、南ドイツのミュンヘンでは「女性の裸」をめぐってある「事件」が起きました。

ミュンヘンのイザール川の川岸で、トップレスで日焼けを楽しんでいた女性に警備員が「ビキニトップを着用するように」と命じたのです。ところが女性は反発し警備員と口論になります。それを目撃した「ビキニ姿で日焼けをしていた女性たち」が警備員に注意された女性との連帯感を示すため、次々とブラジャーを外しました。

サウナは「男女混浴」が当たり前

この「事件」をめぐり、ミュンヘン市議会では議題に上りました。「男性は公の場でも上半身裸の状態で日焼けができるのに、女性にはそれが認められていないのはおかしい」と言うのが理由です。

結果的に、日光浴に関する市の規定が改正され、「性別に関係なく男女とも性器を覆っていればよい」と見直されました。