適正な「年収倍率」はいったいどれだけなのか?
冒頭の平均価格1億円超よりも、よっぽど身近でリアルな価格帯だが、気になるのは、「年収倍率」の格差だ。当該データでは、世帯年収が上がっても、購入時の「平均年齢」や「広さ」「自己資金」などはそう変わらない。「共働き率」が高くなる点も納得だろう。
しかし、「年収倍率」については、1200万円以上世帯が4.4倍なのに対し、600万円世帯では8倍にものぼる。これは、かつて筆者がFPとして独立した頃、年収倍率は「5倍程度」が目安といわれていた頃に比べ、各段に上がっている。
国土交通省の「住宅経済関連データ」では、首都圏のマンション購入者の平均は2021年が年収759万円に対して物件価格4540万円、年収倍率6倍だったが、2021年は、年収835万円に対して物件価格6260万円、年収倍率7.5倍とはね上がっている。
年収倍率は、単に年収を基準にした物件価格の目安に過ぎない。無理のない返済額は、年収以外にも年齢や家族構成、職業などによっても変わってくる。しかしながら、「昨今はこれくらいが当たり前ですよ」といったセールストークもまかり通っており、鵜呑みにせず、自分たちが返済できるのかを熟慮すべきだろう。
首都圏新築マンション「1畳分の死蔵」分は168万円超
さて、ここまで最近の不動産価格の状況について説明してきたが、これらを踏まえて考えたいのは、賃貸にしろ、持ち家にしろ、今住んでいる家で、モノを置くスペースには「コスト」がかかっているということだ。
とりわけ、前述の首都圏のような1m2単位あたりの価格がバカ高いエリアの新築マンションに住んでいる場合はなおさらである。前掲の2022年度の首都圏分譲マンション1m2当たりの平均単価は103万9000円だった。不動産業界のルールでは、1畳=1.62m2と定められているので、たった1畳に約168万円ものコストがかかっている計算になる。23区なら、1m2150万円なので1畳分で243万円となる。
ほとんど着ない衣服やガラクタ同然の雑貨、脱ぎっぱなしの服や洗濯物が絶えず置かれたソファやマッサージチェア、ぶら下がり健康器……探せば、どんな家庭にも不要品はあるだろう。それらはスペースを占有し、家庭によっては、それは1畳どころか、3畳~4.5畳に拡大し物置部屋化してしまうケースもある。そうなると、ドブに捨てているのは200万円前後(1畳)では到底すまず、500万~720万円(3畳)、750万~1090万円(4.5畳)と巨額になる。(賃貸なら、首都圏で1畳分月5400円、年6万4000円超を支払っている計算)。
すでに購入して住んでいると、占有面積に対するコスト意識など考えたことがない方が大多数だろうが、どうしても、モノが捨てられないという人は、不用品の山で、どれくらいのコストを無駄にしているのか振り返ってみては、いかがだろうか。
そして、これから購入する方は、わが家が快適に生活できる居住スペースとそれにかかるコストのバランスをよく考えていただきたい。