人生後半を楽しく生きるコツは何か。明治大学文学部教授の諸富祥彦さんは「中高年はフロイト『断念の術』を知るといい。熟年離婚や配偶者との死別など大切な何かを失うことが増えたときに涙も枯れ果てるほど悲しみつくすと、また若々しく生命の力が湧いてくる」という――。

※本稿は、諸富祥彦『50代からは3年単位で生きなさい』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

頭を抱えているビジネスマン
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フロイト「断念の術」を心得ることが人生後半の秘訣

中高年にとってカウンセリングは大きな意味を持っています。中高年になると、いろいろなものを「失っていく」からです。

まずは体力が衰える。視力も衰える。歯も弱くなる。体力もなくなる。夜、熟睡できなくなる。記憶が低下する。健康が失われていく。

自分の人生の残り時間が失われていく。

自分にとって「大切な何か」を次々と失っていきます。

これを「対象喪失」といいます。

「大切な何か」は健康であったり、お金であったり、「大切な人」であったりします。

自分がずっとしていた「仕事」とか「夢」とか「願望」とか、「絶対にこれは成し遂げる」と思っていて、あきらめがつかない「何か」かもしれません。

会社員であれば、「自分の社会的立場」や「役職」を失う。役職定年がまずあって、そして本当の定年が来る。これは、会社人間にとっては大きな喪失感です。

しかし、さまざまな「対象喪失」の中でも、何といっても大きいのは「自分にとって大切な人」を失うことです。たとえば配偶者です。死別もあれば離別の場合もあるでしょう。

後者の場合、熟年離婚を突き付けられることもあります。65歳の定年と同時に熟年離婚を突き付けられることもあるでしょう。これは相当に大きな心のダメージになります。

精神分析ではこの「対象喪失」を最も重要な概念の1つに位置付けます。自分にとって「大切な何か」を失ったら当然、大きなショックを受けます。この「失い方」が、その後の人生や人格に大きな影響を与えるのです。

フロイトは言います。

「断念の術さえ心得れば、人生もけっこう楽しい」

これはとりわけ、中高年の生き方の極意を示していると思います。

「大切な何か」をあきらめる。

断念する。

その「断念した自分」を受け入れる。これは、中高年のカウンセリングで大きな役割を占めます。

心から断念することができれば、そして断念した自分を受け入れることができれば、人生は何とかなるものです。これは中高年にとっては、とても大きな課題です。