中退理由の2割前後が「経済的困窮」で最多
しかし、寮を必要としている学生はいる。地方から首都圏や関西圏の大学に進学して1人暮らしをする場合、家賃は高額になるほか、現状では光熱費も高騰している。かといって、バイトをしすぎて学業に疎かにするわけにもいかない。
文部科学省の調査によると、2020年度は1万2322人、2021年度は1万1862人が中退した。理由で最も多いのが経済的困窮で、いずれの年も2割前後を占めている。休学者で最も多い理由も経済的困窮だ。コロナ禍でその割合は高まっている。経済的な理由で中退や休学をする学生を減らすためにも、寄宿料が安い寮はセーフティーネットとして欠かせない存在なのだ。
吉田寮の学生を支援している京都大学大学院教育学研究科の駒込武教授は、大学生を取り巻く現状を次のように指摘する。
「日本は大学の授業料が高額な上、奨学金も利子付きの学生ローンになってしまっています。ですから、経済的に困っている学生は格安の学生寮がなければ、とても大学に通い続けられません。しかも、個々の学生の困窮の度合いは親の収入ではわからないところがあります。実際に京都大学にも、格安の自治寮がなければ大学に通い続けられなかったという学生が少なからずいます」
「資産の有効活用」が優先されている
その上で駒込教授は、各大学が寄宿舎を廃止する動きについて疑問を投げかける。
「寄宿舎の設置について大学設置基準が変更された理由は、きちんと説明されていません。吉田寮も泉学寮も跡地利用は不明です。自治寮を廃止する動きは、学生の福利厚生よりも、大学の資産の『有効活用』を優先するということではないでしょうか」
金沢大学泉学寮を4月7日に後にした前出の冨樫さんは、廃寮までの一連の動きを振り返ってこうつぶやいた。
「大学は学生を主体として見ていない。意思を持った人間としてではなく、管理する対象としてしか見ていません。大学に対する信頼はなくなりました」
大学は誰のために、何のためにあるのか。寮廃止の動きからも、考え直してみる必要がありそうだ。