北島康介(水泳選手)
惨敗だった。五輪3連覇を狙った男子100メートル平泳ぎ。日本のエース、北島康介は平凡なタイムで5位に終わった。
レース直後のミックスゾーン。ショックだったはずだ。それでも北島は記者に本音をきっちり、話し続けた。つとめて毅然としていた。「自分の力が出なかった点については悔しいし、せっかくの舞台で最高のパフォーマンスができなかったことも悔しい」。
質問にちょっと黙ったのは、ずっと世界記録を争ってきたライバル、アレクサンドル・ダーレオーエン(ノルウェー)さんについての時だった。右手に持つミネラルウォーターのペットボトルが小さく揺れた。
ダーレオーエンさんは4月、トレーニング中に心臓麻痺で急死した。26歳だった。ダーレオーエンさんは北京五輪の銀メダリスト。北島を育てた平井伯昌コーチのところに指導をあおぎにきたこともあるし、北島と一緒にトレーニングに励んだこともある。
ダーレオーエンさんの存在が、北島にとってはモチベーションのひとつだった。だが、ロンドン五輪の舞台にはいなかった。「彼がいないのはさみしい」と漏らした。
北島は目をしばたかせる。「彼がいたら、きっと最高のパフォーマンスをしていたと思う。ノルウェーの人もつらい思いをしたのじゃないかな」。ちょっと間をおく。「彼に対しても情けないレースをしてしまった」。
北島が200メートル平泳ぎで雪辱できるかどうかは、本人の持ち前の闘志に火が付くかどうかである。インタビューの最後に言い切った。「粘るよ」と。
「200メートルは粘るよ。最後まで粘る。自分はしなきゃいけないことがある」