健康診断は受けなくてもいい

なぜ、私たちがこれほどまでに正常値にこだわってしまうのか。これには、毎年毎年、せっせと受けさせられている健康診断による影響が非常に大きいと感じています。

とくに今の高齢者世代は、健診が広く一般的になった時代の先駆けでもあり、健診をとてもありがたがって熱心に受けようとします。もはや「信仰」と言ってもいいのではないかというほどです。

しかし、年を重ねてきたら、実は健診を受ける意味はほとんどないと私は思っています。むしろ害のほうが大きいのではないかとさえ言えるほどです。

胃カメラ検査を受けている男性
写真=iStock.com/urbazon
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もちろん、私は健康診断が誰にとっても不要なものだとは言いません。50代くらいまでの人たちにとっては、健診は非常に意味のあるものでしょう。

血管の柔軟性もまだ保たれているわけですから、きちんとした食生活を送り、適度な運動をすることなどで、適切な血圧や血糖値をキープして動脈硬化の予防につなげる。これは大いに意味のあることです。

しかし一方で、高齢の人たちにとって、健康診断で示されている基準値に縛られることは、意味がないどころか、時に健康を損なうリスクを高めかねないということです。

第一、健康診断なるものが長寿に役立つのであれば、なぜ、健康診断をせっせと受けてきた男性と、女性との平均寿命の差が広がり続けてきたのでしょう。

今の年配世代の方たちは、男性は会社員、女性は専業主婦やパートが多かった時代で、総じて男性のほうが健康診断をきっちり受け続けてきた人が多くいます。女性のほうは、専業主婦やパートなどが多く、あまり健康診断は受けていません、という人が少なくありません。

いま元気なら「自分は健康」と考えてよい

ところが、1950年代にはせいぜい3歳くらいだった男女の平均寿命の差がどんどん開いて、今や7歳もの差が生まれてしまっているわけです。健康診断が長寿に役立つのであれば、せっせと健診を受けていた男性の寿命が伸びているはずなのに。不思議なことです。

健康診断では、「A」とか「D」といった判定が基準値に基づいてくだされます。繰り返しになりますが、数値というのは個体差があり、同じ数値でも「この数値でも元気な人」もいれば「この数値だと不調になる人」がいるのです。

そして、高齢者の場合、数値が基準値を超えていようと低かろうと、今現在、元気なのであれば、その事実をもってして「自分は健康である」と考えてよいのです。

ところが、ちょっとでも基準値を超えていると、やれ血糖値を下げる薬だの血圧を下げる薬だのコレステロール値を下げる薬だのを処方してもらわないと心配で仕方がなくなる。

その結果、動脈硬化で血流が悪いところに、血圧や血糖値を下げる薬を飲むものだから、血流はますます悪くなり、四六時中頭はぼんやりしてきて、やる気もわかず、なんとなく抑うつ状態になってきてしまう。あるいは認知機能までどんどん低下してしまう。

これでは、何のための健診なのかわかりません。