海外での貧困は、経済困難だとは認められない
現地国から生活保護を受給することになり就職活動も続けたものの、努力は報われなかった。そのうちに、高校・大学時の奨学金の返還猶予期間が限度に達した。JASSOは、生活保護受給中は制限期間なく返済を保留するとしているし、日本では生活保護受給者は奨学金の返済(借金返済)をすると生活保護を打ち切られるため、K氏は「目下、奨学金の返還能力がない」という証明書を現地国の当局からもらい、翻訳してJASSOに提出した。
だが、受け取った回答は予想外のものだった。「海外での生活保護受給は日本の法律の範囲外であり、JASSOの制度の対象外だ」というのだ。結局、返済保留は承認されなかった。
やがて、JASSO委託の債権回収会社から日本の親戚宅に督促状(催告状)が届くようになった。両親が他界して、K氏が唯一頼りにしている親戚だ。親戚は督促があるたびにK氏に電話やメールで連絡を入れ、督促状をK氏に転送した。毎月累積する割賦金には、延滞金が加算され借金は膨らむ一方だった。「優れた学生として学校より推薦を受けて奨学金を貸与されたからには、返還にも責任を負わなければなりません」など、督促状に書かれた言葉遣いは丁寧だが、K氏は自分を責めることをやめられず、夜眠れなくなることもあった。親戚の連絡はK氏を心配しての行為だったが、K氏は日本からの着信音におびえるようになったという。
「返済はします。でも今、どうしても返せない状況なのです。待っていただけませんか」と国際電話でJASSOに懇願しても、聞く耳をもってもらえなかった。