集団の和を乱す人も許容する組織づくり
異質な人材を活用し、商品化チームも敢えて混成型とした点を、前田は次のように書き残している。
「(リーダーである)自分に対して反対の意見や都合の悪いことを言ってくれる人も含めて、いろいろな個性の人や技能を持った人を意識的に集める。時には集団の和を乱すくらいの人も許容する組織を作ることが重要です。
同質ばかりで構成された集団は、一見結束が固く強いように思いますが、実は多様な環境への対応や急な環境の変化への対応には弱さを露呈してしまうことがしばしばあります。Yes man集団の弱さです。
一番良いのは『異能の集団が、合意した同じ目標に向かって、それぞれの専門性を活かして最大限に努力している』状態です。
しかし、人には『合う、合わない』という相性の問題が付きまといます。これを解決するのはなかなか難しい課題ですが、実は『合う、合わない』と感じているのは正に当事者、自分です。自分が、合わないと感じなければ合います。
(中略)要は『異質』を『異質と思わない』ある種の鈍感さが必要かも知れません。異質と思わずに、異質、異能を一杯取り込みましょう」(05年12月22日作成の前田仁の講演録「運営の技術(リーダーシップ)」より引用)。
前田の仕事により、かつてあれほど閉塞感に包まれていたキリンに、変化のきざしがはっきりと現れ始めていたのである。
ちなみに鬼頭は2021年、キリンを退職。長崎県・五島列島の福江島にて、「クラフトジン」づくりへの挑戦を始めた。
「株式会社五島つばき蒸留所」(五島市)を21年11月に設立し、翌年10月に蒸溜所の建設に着手。完成した12月から蒸溜を開始していて、世界市場に打って出ている。キリンマーケ部に在籍して、一時は「一番搾り」のブランドマネージャーを担った門田クニヒコを社長に、技術出身の鬼頭は取締役で製造担当。さらに、やはりキリンマーケ部出身の小元俊祐と、いずれも50代3人の布陣だ。
「社外でも通用する人材たれ」と部下に訴えていた前田だが、世界を目指す教え子も誕生しているのだ。