<住宅価格の高騰や金利上昇の懸念などで「持ち家」より「賃貸」を選ぶ人が増えると思われるが、落とし穴はないのか……:加谷珪一>
住宅街に位置する広いアパートメント
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かつてない水準で進むインフレとそれに伴う金利上昇懸念から、住宅市場が変化する可能性が出てきた。

「持ち家信仰」が強い日本では、税制など各種政策も住宅の購入が大前提となっており、ファミリー層が居住できる賃貸物件は少ない。住宅価格がここまで高騰すると賃貸へのニーズは高まらざるを得ないが、供給は不十分な状況が続くので、このままでは家賃上昇リスクを招く可能性がある。

首都圏の新築マンション平均価格は上昇が続いており、既に6000万円を突破している。これまでは低金利が続いてきたことから、価格が上がっても何とかローンを組むことができた。だが、日銀総裁の交代で金利が引き上げられる可能性が高まっており、住宅ローンの支払額も増えると予想される。

マンション価格の上昇が単なる不動産バブルであれば、金利の引き上げは価格下落につながる。だがマンション価格は過去20年、一貫して上昇が続いており、その主な要因は資材価格の高騰なので、金利が上がっても販売数量が減るだけで、劇的な価格下落は発生しない。

このままインフレが進み、金利が上昇した場合、マンション価格は下がらず、住宅ローン負担だけが増加するという事態も十分にあり得る状況だ。ここまで来るともはやマイホーム取得には経済合理性がなくなり、一生賃貸のほうがよいと考える人も増えてくるだろう。

「持ち家信仰」が崩れるのは自然な流れ

持ち家か賃貸かという選択は、世帯のライフスタイルによって異なるので、いわゆる「持ち家信仰」が崩れること自体は自然な流れといってよいかもしれない。だが、日本の住宅政策は持ち家を大前提としており、今の政策を漫然と続けていると、大きな問題が発生する可能性がある。

コロナ禍によって一時、鈍化したかに見えたものの、地方から首都圏への転入が増えており、都市部の人口集中が再び進み始めている。リモートワークの進展で地方移住が進んでいるというニュースをよく目にするが、こうした移住ができるのはごく一部のエリート層のみであり、多くの労働者は何らかの形でオフィスや現場への出勤が求められる。

加えて人口が減少すると、商圏が維持できなくなる地域が増えるため、何もしなければ都市部の人口集中が進むというのが市場の摂理である。