小規模事業者が廃業に追い込まれる可能性
インボイス制度自体は、欧州の付加価値税の多くで導入されている。消費税が欧州型の付加価値税である以上、ある意味では当然のことであり、それ自体に問題があるわけではない。
しかし、これまで消費税の税としての性格が国民に誤解され、「益税」などという筋違いの批判が行われてきた日本で、このままインボイス制度が導入されると、被雇用者から個人事業主、ギグワーカーなどへの代替で生じた「実質的な労働者」も含む小規模事業者等が、厳しい状況に追い込まれることになる。
適格請求書登録をして課税事業者にならないと、取引先にとって課税仕入れと認められず、その分、取引先が消費税を負担することになる。それが、結局、免税業者が取引先を失い、廃業に追い込まれることにもつながりかねない。
一方、最低賃金のレベルの収入しかない事業者は、インボイス登録をしても、そのために必要な事務処理コストを負担する余裕がないことも考えられる。
政府は、6年間、売上1億円以下の企業は、1万円以下の取引では、適格請求書の添付がなくても、課税仕入れとして認めるなど、インボイス制度導入による零細企業の負担を軽減するための措置を導入するようだ。5000万円以下の事業者は簡易課税制度(売上に係る消費税額の合計金額にみなし仕入れ率を掛けて仕入れ税額を計算し、消費税の納税額を簡単に算出することを認める制度)も活用するなどすれば、相当程度負担が軽減できると考えられる。
益税批判は人気動画「YouTube大学」でも
しかし、消費税の転嫁は、小規模事業者であればあるほど困難であり、特に、消費者向けの零細小売業者の場合、課税業者、免税業者を問わず、「消費税分の上乗せ」などというのはほとんど行えないのが実情だ。それなのに、「預り金ドグマ」を前提に、これまで、「小規模免税事業者は、消費税を預かりながら、納付を免れてきた」などという誤解による益税批判にさらされてきた。
人気お笑いタレントで教育系ユーチューバー中田敦彦氏の「YouTube大学」は、文学や経済・歴史などをわかりやすく解説する超人気チャンネルであり登録者は500万人を超える。インボイス制度の解説の初回で、中田氏も益税批判を繰り広げていた(現在、該当動画は非公開となっている)。
消費税は、バブル景気の最後の時期に導入され、その後、バブルの崩壊によって長期化するデフレ不況下で引き上げられ、第2次安倍政権下でさらに引き上げられる中で、政府やマスコミなどによって誤解が作り上げられてきた。
詳しくは拙著『“歪んだ法”に壊される日本 事件・事故の裏側にある「闇」』(KADOKAWA)にて解説しているが、その誤解によって生じている影響を、今、改めて問い直す必要がある。それは、インボイス制度の導入をどう考え、どう対応するかという当面の問題だけではなく、消費税を今後どうしていくのかを考える上でも欠くことができないものだ。