「子ども保険」の構想

この保育における「福祉からサービスへの転換」には、良い前例がある。

それは2000年に、それ以前の家族による介護を受けられない高齢者のための老人福祉制度から、社会全体での高齢者介護への転換を実現した「福祉の基本構造改革」であった。ここでは、介護サービス市場への企業の自由な参入で供給を増やし、その介護サービスを家族が自由に購入するための資金を確保する介護保険が設立された。

現在の岸田政権にとって、必要なことは、現行の介護保険と一体的な「子ども保険」の設立である。

既存の介護保険制度の被保険者は40歳以上となっており、64歳までの保険料は医療保険への上乗せ分(1.82%)で、また65歳以上は公的年金からの天引きとなっている。ここで幸いにも空いている介護保険の20-39歳の被保険者枠を保育保険に活用し、保育と介護の負担を社会全体で担う「家族保険」とすることができる。

ただし、国民負担率(所得税と社会保険料の合計)がすでに50%近くになっている現在、この「子ども保険」には以下のような批判・反発が予想される。

第1に、子どもを産むことは自発的な意思で保険事故ではなく、濫用される危険性である。しかし、医療や介護保険と異なり、子ども保険は、それが濫用されて多くの子どもが生まれること自体が望ましいという点に大きな特徴がある。

彼は仕事をしていて、家で育児をしています。
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第2に、子どもを持たない人の合意が得られないという批判には、日本の将来と社会保障制度を支える世代の担い手を育成する負担をシェアすることの意義を丁寧に説明するほかない。また、子どもを持ちたい人には、保険料負担を超える大きな利益がある。

第3に、現役世代だけが負担するのは不公平という批判には、65歳以上の高齢者にも、同様の理由で介護保険料への上乗せ負担を求めることもあり得る。さらに、障害児などには要保育認定で保育報酬の割り増しを行うこともできる。

最近、既存の年金や医療保険から少しずつ拠出を求める「子育て連帯基金」の構想があるが、およそ小手先の対策に過ぎず、十分な財源を得られる保証はない。

子供数の持続的な減少が日本の将来にとって大きな危機という認識があれば、保育士の量的確保や待遇改善などのための独自財源を担う子ども保険の設立は、岸田政権の少子化対策への本気度を示すという政治的な意味も大きい。

岸田政権の打ち出した異次元の少子化対策には、従来の伝統的な家族にこだわった働き方や年金制度、および保育所の改革が不可欠となる。それは同時に、夫婦別姓選択など、より多様な家族の在り方への選択肢を広げ、若い世代の結婚への意欲向上に結びつくことが期待される。

ふるい家族の形態にこだわる考え方が、新しい家族の形成も妨げている現状への危機感が、真の少子化対策に必要となろう。

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