政府の少子化対策の骨子が公開された。
児童手当や奨学金の拡充など、子育て世代への支援策が盛り込まれているが、「出産費用への健康保険の適用」以外は、制度改革といえるものは少ない。果たして財政支援の拡大だけで、少子化に歯止めをかけられるのだろうか。
子ども数の減少は、戦後日本の高い経済成長期に定着したさまざまな制度や慣行が、その後の急速な環境変化にもかかわらず、ひたすら過去の成功体験にしがみついていることから生じた現象のひとつといえる。その意味では、日本経済の長期停滞と同様に、老朽化した制度や規制の改革なしには、とうてい実現できないといえる。
少子化の基本的な要因のひとつとして、女性の働き方の変化に注目すれば、それに対応した政策としては、主に「1:職場での働き方」「2:女性の年金」「3:児童福祉」の3つの壁の改革がある。順番に要点と課題を説明していこう。
1:働き方の壁の改革
戦後の出生数の低下には3つの局面がある。
第1は、戦後のベビーブーム期から1960年代までの急速な減少で、農家など自営業の急速な衰退があった。自営業では、子どもは労働力や後継者として不可欠の存在だが、雇用者世帯にはそうした必然性はない。その後、1975年頃までの第2期は、第2次ベビーブーム期で出生数は増加したが、出生率自体は人口を安定化させる2.1の水準にとどまった。それ以降の第3期で、出生率が1.3まで持続的に低下しているのは、女性の雇用者としての就業率の高まりを反映している。
戦後日本の特に大企業では、職場での訓練を重視した、集団単位の無限定な働き方が主流である。慢性的な長時間労働と、頻繁な配置転換や転勤に適応するためには、世帯主と、家事・子育てに専念する配偶者との役割分担を暗黙の前提とした「家族ぐるみ」の雇用が必要とされる。
他方、企業内で働き続けるフルタイムの女性には、こうした無業の配偶者付き男性と同じ働き方は不利となる。それでも仕事と子育てとの両立を目指す上で、男性の育児休業の奨励は一歩前進だが、育休1カ月程度では十分とはいえず、働き方の改革が本丸だ。
戦後の高い経済成長を支えてきた日本の雇用慣行は、デジタル化などの大きな環境変化の下で、より個人単位の専門職的な働き方への転換が迫られている。それに対応しない伝統的な雇用を守る規制などを改革することが、生産性の向上だけでなく、女性にとっての長期就業と子育ての両立にも貢献する。しかし、働き方の改革はほとんど盛り込まれていない。