実物資源の制約と高インフレが襲ってくる

説明しましょう。

資本主義における近代的な政府は、確かに資金的な制約からは解放されていますが、実物資源の制約は課せられていることは、すでに説明しました。この実物資源の制約こそが、国民が分かち合わなければならない「負担」です。

防衛力を強化するためには、たとえば自衛隊員を大幅に増やしたり、基地を増強したり、武器を製造したりする必要があります。

そうすると、防衛関係以外の事業に投入できたはずの労働力や資材が、防衛力の強化のために動員されることになるので、労働力や資材の需給が逼迫ひっぱくし、物価が上がることになります。そのインフレがマイルドなものであるうちはいいのですが、防衛力を抜本的に強化するとなれば、労働力や資材の供給が追いつかなくなるかもしれません。そうなれば、インフレがひどくなり、国民生活を圧迫することになるでしょう。

しかし、国を守るために、本当に防衛力の抜本強化が必要なのだとすれば、国民は、その高インフレを我慢しなければなりません。これが、いわゆる国民の負担です。

将来世代へと先送りすることはできない

防衛力の抜本的強化に伴う高インフレという負担は、当然のことながら、「今を生きる世代全体で分かち合っていくべき」ものとなります。

中野剛志『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)
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したがって、防衛力の抜本的強化のために、増税をする必要はありませんが、今を生きる世代には、実物資源の逼迫という負担、高インフレという負担が課せられます。

つまり、政府が増税ではなく国債発行を選択したとしても、今を生きる世代は、その負担を将来世代へと先送りすることはできません。防衛力の抜本的な強化を進めるだけで、自動的に、今を生きる世代に高インフレという負担がのしかかるのです。

その意味では、「防衛力の抜本的強化に当たっては、自らの国は自ら守るとの国民全体の当事者意識を多くの国民に共有して頂くことが大切だ」という有識者会議の指摘は、まったく正しいと言えるでしょう。

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