日本の財政赤字をどうするべきか。評論家の中野剛志さんは「政府が債務を負って支出を増やすことで、貨幣が創造され、供給されている。デフレ不況で民間部門の貨幣の循環が少ない時に財政赤字が増えることは、むしろ良いことだ」という――。(第1回)

※本稿は、中野剛志『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。

1万円札
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民間銀行はどこから貨幣を創造しているか

資本主義経済における貨幣循環の過程では、はじめに企業の資金需要があります。

次に、民間銀行がその需要に応じて貸出しを行なう、つまり「無から」貨幣を創造して供給します。

そして、企業は、借り入れた預金(貨幣)を支出して、経済の中に供給します。

貨幣は、経済の中を巡っていきます。

そして、企業は、収入を得ることで貨幣を回収し、銀行に対する債務を返済します。これにより、貨幣は破壊され、消滅します。

この一連の貨幣循環の過程(図表1)から、次の4つが確認できました。

貨幣が存在するためには企業の債務が必要

①支出が先、収入が後

企業は、支出にあたって、必ずしも収入(=財源)を必要としない。

企業は、先に貨幣の支出を行ない、その後で、収入を得ている。「支出が先、収入が後」である。

②企業の財源=企業の需要

民間銀行は、返済能力のある企業に対しては、その資金需要に応じて、いつでも、いくらでも、貸出しを行ない、資金を供給することができる。

言い換えれば、民間銀行が貸出しによって創造する貨幣は、究極的には、企業の資金需要から生まれる。

したがって、企業の財源は、企業の「収入」ではなく、企業の「需要」である。

③企業の収入と返済が、貨幣を破壊する

企業の貸出しによって貨幣は「無から」創造され、企業の支出によって貨幣は、経済の中に供給される。

そして、企業が収入を得ると、貨幣は経済の中から回収される。企業が回収した貨幣をもって銀行に債務の返済を行なうと、貨幣は破壊され、消滅する。

④すべての企業が完済してしまうと、貨幣がこの世から消えてしまう

「貨幣は、負債の特殊な形式」であり、返済は貨幣を破壊することですから、すべての企業が債務を完済すると、経済の中から貨幣(=負債)が消滅してしまう。

したがって、資本主義経済においては、人々が取引や貯蓄のために貨幣を使用するには、債務を負った企業が常に相当数存在していなければならない。

さて、以上は、資本主義経済における貨幣循環ですが、ここでは、政府部門を考慮に入れていません。それでは、次に、政府部門を入れて、貨幣循環を考えてみましょう。