※本稿は、中野剛志『どうする財源――貨幣論で読み解く税と財政の仕組み』(祥伝社新書)の一部を再編集したものです。
税は国民経済を望ましい姿にするための手段
機能的財政では、国民経済に与える影響を基準にして、財政支出の規模、支出先あるいはタイミングなどを決定します。収支の均衡は、基準にはなりません。
同様に、機能的財政は、税についても、国民経済への影響を基準にして判断すべきだと説きます。
言い換えれば、税というものは、政府支出の財源を確保するための手段ではなく、国民経済を望ましい姿にするための政策手段なのです。
たとえば、税は、所得格差を是正する上では、きわめて効果的な政策手段です。
富裕層の所得やぜいたく品の消費には、課税をより重くし、貧困層の所得や生活必需品の消費に対しては、非課税あるいは税率の軽減とすれば、所得格差が是正されます。
富裕層に対する課税や累進所得税は、お金持ちから貨幣を奪って貧困対策の財源にするために必要なのではありません。所得格差を是正し、より平等な社会を実現するための政策手段として、必要なのです。
国民の「消費」を抑制する消費税
あるいは、税は、気候変動対策のための政策手段ともなります。炭素税が、それに該当します。
税には、増えると望ましくないものに課すことで、その量を減らすという効果があります。
炭素税は、二酸化炭素の排出に対して課税をすることで、その排出を抑制し、地球温暖化を抑止するというわけです。
同様に、たばこ税は、たばこに課税することで、喫煙の量を減らし、健康被害を少なくする政策手段になり得ます。
さて、炭素税は、二酸化炭素の排出を抑制し、たばこ税は、喫煙を抑制します。
では、消費税は、何を抑制するのでしょうか。
言うまでもなく、「消費」です。
日本政府は、1997年に消費税率を3%から5%へと引き上げ、2014年には8%、さらに2019年には10%にまで引き上げました。
日本政府は、消費を抑制したかったのでしょうか。
そんなはずはありません。この間、日本は消費が低迷し、経済は成長しなくなっていたのです。消費が増えすぎて高インフレで困っていたのならまだしも、デフレで苦しんでいたのだから、消費を抑制したかったはずがない。