「経済成長による税収増」の問題点

ところで、防衛財源の確保のための増税に反対する政治家などの中には、「増税ではなく、経済成長によって税収を増やすことで財源を確保すればよい」と主張する人が少なくありません。

先ほど述べたように、それは不可能ではありません。

しかし、経済成長によって税収を増やし、もって防衛財源とするという考え方には、いくつか問題点があります。

第一に、国家の安全保障は、経済成長する・しないにかかわらず、確保しなければなりません。経済成長しなければ財源が確保できず、国を守れないなどということでは、いけないのです。したがって、国防に必要な財源を経済成長に頼るような考え方は、すべきではないのです。

第二に、政府が債務を負って貨幣を創造すれば、容易に財源を確保できます。しかも、民間企業と違って、政府の財政は破綻しない。それなのに、どうして政府は、わざわざ民間企業に債務を負わせて貨幣を創造し、その貨幣を召し上げるなどという、迂遠うえんなやり方をしなければならないのでしょうか。

いまの状況での経済成長は絵に描いた餅

第三に、民間部門で生まれた貨幣は、民間企業に需要があるから創造されたものです。つまり、その貨幣は、民間企業がその事業のために必要とするものです。それを政府が奪い取って、防衛財源に充てると、その分だけ、民間企業は必要な事業を行なうことができなくなります。それは、経済をはなはだ非効率にするのではないでしょうか。

最後に、「経済成長によって税収を増やし、財源とすべきだ」と主張する政治家は、多くの場合、財政赤字が増えることを避けたいと考えています。そうでなければ、政府が債務を増やして防衛財源を確保すればよいはずだからです。ですが、政府が財政支出を増やさずに経済成長を実現するのは、すでに説明したように、ほぼ無理でしょう。

とりわけ、デフレであったり、あるいは、地政学的なリスクが高まったりしている時には、企業は積極的な投資を行ないにくいので、民間主導の経済成長は困難になります。実際、今日、地政学的なリスクが高まっているから、防衛力の抜本的強化が必要だということになっているわけです。そのような危険な国際情勢下で、民間主導の経済成長を期待するのは、楽観的すぎると言われても仕方がありません。

したがって、政府債務を増やすことなく、経済成長を実現して税収を増やし、防衛財源を確保するというのは、絵に描いた餅になる可能性が大きいでしょう。