巨人たちの肩に乗って進む

専門の研究者も、まったく独自の発想に従って問題を解決したのではなく、これまでの学問の蓄積の上に乗って、新しい理論を構築してきました。

ニュートンは、「私は巨人たちの肩に乗って仕事をした」と言っています(ただし、この言葉の原典は、12世紀のシャルトル学派の総帥ベルナールの言葉だとの説もあります)。

先立つ多くの人が残した業績の上に、少しだけ新しいものを付け加えたというのです(もちろん、ニュートンが付け加えたものは、われわれの基準から見れば、途方もなく大きなものですが)。

物理学の方法論も、基本的にはこれまで述べてきたものと同じです。つまり、「古いアイディアを再利用する」のです。例えば、水素原子のモデルは、陽子のまわりを電子が回るというものですが、これは、地球のまわりを月が回るモデルを借りたものです。このモデルは、水素原子のさまざまな挙動をうまく説明します。

相対性理論誕生の秘密

宇宙物理学者のローレンス・クラウスは、「(物理学の)重要な革命のほとんどは、古いアイディアを捨てることによってではなく、なんとかそれと折り合おうとした結果得られたものだ」と述べています。

その例として、アインシュタインの相対性理論を挙げています。相対性理論は、それまでの物理学を否定するのではなく、それをできるだけ維持するという立場から作られたものです。

「等速運動する観測者の間で物理法則は同一」という「ガリレオの相対性原理」と、「どの観測者にとっても電磁波の伝播速度は同一」という「マクスウェルの理論」を両立させるには、「時間や距離が変化する」という考えをどうしても持ち出さざるをえなかったのです。

「創造的剽窃行為」こそが重要

1978年のノーベル化学賞受賞者ピーター・ミッチェルも、相対性理論について同じ説明をしています。そして、「若い研究者が心がけるべきことは、最小の変革ですむように考えることだ」「古いアイディアを剽窃ひょうせつして、何にでも使ってみよ」「新しい問題をすでに解決済みの問題に焼き直せ」と言っています。